第5章 お館様
「お館様が考えてくださっているのならば、私はそれを待ちます。入隊が認められるならば、どんな条件でも努力する覚悟でお話しました」
こればかりは譲れない。
忘れたフリなんてしたくない。
「剣士になれずとも、隠になる道もあると思います。運動神経は悪くないと思っていますし、護身術だってやっていました。煉獄様は街で見ていたではありませんか。自分の身は自分で…っ!!」
守れます、という前に腕を掴まれ近くの木に押し当てられる。煉獄の額と腕には怒りを表すように、血管が浮いていた。
煉「これしきを受け流すことも出来ず、己を守ると?俺の力なんて鬼の力の数分の一だ。鬼に遭遇していたならば、既に死んでいる!」
「それでも!私は鬼殺隊に入ることを諦めません!」
煉「胡蝶も俺も、誰も鬼殺隊に入るなど望んではいない!幸せに生きて欲しいと望んでいる!」
ズキリと胸が痛む。二人が心から望んでくれているのを分かっているから。
俯いた月奈の簪に煉獄の指が触れる。
煉「こんな決意をさせたくて贈ったんじゃない。君はただ…幸せに生きて…」
「一度は記憶を無くした私におっしゃいますか?全て忘れて幸せになれと…残酷ですね煉獄様は。記憶が戻れば結局苦しいだけ、忘れたくなんかありません」
微笑んで煉獄を見上げた月奈の目は涙で濡れていた。
(泣くな…泣くな…)
ギュッと拳を強く握りしめて、涙がこぼれないようにする。
煉「違う!…忘れて欲しいなど思っていない…違う!」
「それに…稀血であることで、鬼に狙われやすいのならば、守る力がある方の傍にいたいと思います。街でそのような方に出会えますか?どなたが守ってくださいますか?」
ーそんなもの、待っていても現れるはずもない。
「襲われてから後悔したって遅いのです。いいではないですか、鬼殺隊ならば居場所も守る力も、恩返しもすべてが叶います」
煉「それは…だが…っ!?」