第5章 お館様
あ「失礼します」
スラッと襖が開き、お館様が入ってこられたのを耳で感じる。
三人はすでに頭を下げていた。
畳の上を滑るように歩く音が止み、腰を下ろした音が聞こえた。
?「よく来てくれたね月奈。杏寿郎、しのぶも先日の柱合会議以来だね。来てくれてありがとう」
煉「お館様におかれましてもご壮健で何よりです!」
館「あぁ、ありがとう。今日は月奈がいるから、いつもの挨拶は大丈夫だよ」
穏やかな声に、月奈は何故か涙が出そうになる。
ぐっと堪え、言葉を絞り出す。
「お館様におかれましては、此度このようなお話の席を設けて頂けたこと感謝致します。奥方様であられます、あまね様には先ほど無礼を働いたこと、謹んでお詫び申し上げます」
緊張からだろうか声がかすれている気がする。
顔を上げて、と促され、ゆっくりと顔を上げた月奈は驚いた。
想像したよりもずっと若い。そして額から頬近くまで痣のようなものが広がっており、とても痛々しい。おそらく視力も失いつつあるのだろう。もしかしたら失っているのかもしれない。
館「月奈まで、そう畏まらなくても大丈夫だよ。自己紹介が遅れたね、僕は産屋敷耀哉、そして妻のあまねだ」
耀哉は優しく微笑み、隣のあまねは頭を下げている。
慌てて、月奈も頭を下げる。
館「さて、今日来て貰ったのは、月奈の今後について…だけど、杏寿郎としのぶは鬼と無縁の生活を送って欲しいと思っているようでね。月奈がそれを望むならば産屋敷家が支援をしたいと思っているよ」
驚いて月奈は顔を上げる。
(それは…全て忘れて…知らないフリをして生きていくこと)