第26章 居場所
「醜いと感じてしまえば夜に誘われることなどありません。一度目に焼き付いた身体の傷はきっと暗闇であっても思い出すでしょう、そして子を成せないとなれば...言わずもがな、ですね」
煉「醜いと...そう言われたのか!?その上、家を追われたと!」
肩を握る手に力がこもり、瞳には怒りの色が現れた杏寿郎に月奈は苦笑する。
(関係が無かったことを喜ぶのではなく、私がそんな立場で苦しんだのかと心配してくれている。本当に優しい人...)
「全て予測して動いたことです。私の勝手な事情で相手を利用したとなれば、それ位の仕打ちを受けたとしても当然のこと。初めから覚悟の上で嫁いだのです」
月奈にとって杏寿郎以外考えられなかった。結果的に相手の男性を利用し、今こうして杏寿郎の傍にいる。自分の身体のことも何かを失うことになっても、心の中までは誰も手出し出来ないことが分かっていたから堪えられた。
十分な仕打ちを受けた。
師範である長谷はそう言った。しかしそれを免罪符に杏寿郎に黙っていることは出来なかった。これほど浅はかで残酷な計画を実行した事実を隠した上で幸せになれるとは思えなかったのだ。
煉「確かに月奈の行動が褒められた物ではない。だからといって艱難辛苦全てを君が一人で受ける必要は無い!もう十分だ。これからは俺が共に受けよう!」
俺も関係者だからな!と笑う杏寿郎に月奈は心の底から言いようのない気持ちが込み上げてくる。
自分の気持ちに封をしようとすればするほどに苦しかった。
その苦しさは自分がしてきたことへの因果応報だと受け入れようとしていた。それを分かち合おうなど...。
「そんな簡単に...」
煉「俺は月奈がどこにも行かない安心が欲しい。それにこの案は一緒に居たいと言ってくれた時からずっと考えていたことだ、もう自分のせいでと気負う必要などない、その気負いごと俺が引き受けよう!」
引き受けてしまっては自分と分け合っていないのでは、と咄嗟に考えてしまった月奈はハッとする。
「って、引き受けたら杏寿郎の負担ばかりではないですか!それはさせませんよ!...せめて半分、いえ三分の二は私が!」
(あれ?そういう話じゃないような...)