第26章 居場所
恋仲として一時は過ごし、それこそ離れていても忘れられないほど恋焦がれた相手。月奈にとって杏寿郎がそうであっても、杏寿郎は違うのではないか。そんな気持ちがいつも心にあった。
「いつから…そう考えていらっしゃったのですか」
煉「いつから、か。それは覚えてないな!少なくとも…覚悟も無く手を出すつもりはなかったことだけは確かだな」
手を出す。その表現に頬を赤くした月奈が「その表現は語弊が…」と弱々しく訂正を入れるが、杏寿郎は首を傾げる。
煉「語弊ではないだろう!それとも君は接吻如き誰とでも出来る、とでも?」
「そんなことは…っ!」
とんでもない誤解だと続ける前に、杏寿郎がポツリと吐いた言葉に目を見開いた。
煉「他の男との結婚生活で何があったか、あえて聞かずにはいたが。今後結婚をしないでおこうと思う何かがあったのか、操を立てるため生涯一人の男と誓ったからなのか…」
「例え接吻一つであろうと、私の操は生涯たった一人だけに許すものです!誰彼構わず?とんだ誤解です!」
厳しい視線でハッキリと言い放った月奈の表情には困惑の色はあれど、憤怒の色が濃い。杏寿郎は流石に自身の発言の不躾さに後悔した。
ーこれではただの八つ当たりだ。
過去について悋気を抱いても仕方が無い話と分かっていても、月奈の唇一つでも知った男がいるということを考えてしまう。
ー...いや、ちょっと待て。接吻一つであろうと、操はたった一人だと...?
煉「よもや!婚姻を結んだ相手と何も無かったと!?」
婚約ならばそれも分かる。しかし結婚となれば子供の話も出るだろうことは想像に容易い。それが何も無かったなど考えられず杏寿郎は思わず月奈の両肩を掴み、答えを求める様に瞳を覗き込む。
(この様子...しのぶさんも蜜璃さんも本当に内緒にしてくれていたのね。義理堅い人達だわ)
「杏寿郎は私の身体の傷をご存知でしょう。この身体を見て世の男性が驚かないはずがありません」
そう言われ、杏寿郎は月奈の身体のキズを思い出す。鬼の存在すら知らない人間にとって確かに驚く傷かもしれない。しかし鬼殺隊の中では有り得る傷。