第26章 居場所
言い切った瞬間、急激に冷静になった月奈は目の前の杏寿郎が笑いを堪えて肩を震わせている姿を見て、自分がおおよそ話の腰を折っていったのだと恥ずかしくなった。
煉「では、互いの願いを聞いた所で。改めて、俺との婚約を結んでくれるだろうか?」
ただでさえ頑固な自分にこれほど歩み寄って手を差し出す人なんて、これから先出会えることは無いだろう。だからこそ自分が煩わしさを感じさせることがないように頑張っていたつもりだった。
時期が整った、さぁ結婚だ。と言われても納得をしないだろうという杏寿郎の予想は実に正しい。それを踏まえつつ月奈の負い目を逆手に取って話を纏めあげた事はただただ驚くばかりだ。
(全て把握されていて、それでも強引にはせずあくまで私の気持ちを聞こうとしてくれる。分かっていても振り返って私を確認をしてくれる)
「不束者ですが...よろしくお願い致します」
自分には勿体無いほどの人。傍に居て欲しいと求められる幸せを教えてくれた人。そして何より、傍にいたいと思える人。
自分がそんな相手に出会えるなんて思っていなかった。
視線を上げれば、嬉しそうに笑う杏寿郎がいる。
本当にこの選択は間違っていないのかと不安になる事があっても、その度にきっとこの人はこうして笑って話しを聞いてくれるのだろう。
(あぁ、この込み上げる気持ちが愛しい、という気持ちなのかしら)
いつの間にか日が差し、杏寿郎の髪が光を受けキラキラと光る。それはまるで太陽のように明るく綺麗だった。
闇を照らして 【完】