第26章 居場所
その不安は月奈の過去の行動が起因であることは明らかだ。あの頃、それが最善の行動だと思っていた自分に我ながら後悔する。
湯呑みを握っていた手に自然と力がこもると、それに気付いた杏寿郎が手に触れ「すまない」と静かに言った。
煉「責めるつもりも他意もない。いかんな…いう必要が無いことを言った」
「そんなことありません!…杏寿郎様を不安にさせている原因は私なのです、関係大ありです」
(考えれば分かることだった。杏寿郎様なら大丈夫だなんて、私はもう離れないと決めたからなんて…)
結局は全て、自分の決意でしかなかったのだ。杏寿郎が気付いてくれるなんて甘えたことを考えていた自分に悔しくなった月奈は縁側に正座すると真っ直ぐ杏寿郎を見つめる。
「一度杏寿郎様を裏切った私の言葉を信じて欲しいとは安易に言えません。ですが、その信用を取り戻す機会を頂きたいと思います」
煉「信用を取り戻す?」
コクリと頷いた月奈の表情は何でも受け入れる決意に満ちていて、杏寿郎は少し困ったように見つめるしか出来ない。
「杏寿郎様がそのような不安を抱かないように、私に出来る限りのことをします!」
煉「…」
出来る限りのこと、と杏寿郎が暫し空を仰ぐ。
ー何もない、と言えばこの娘は不満だろう。しかし、俺の気持ちの問題であって、解消方法など…。
そこまで考えて杏寿郎はあぁ、と思いついたように声を上げた。その声に月奈は目を輝かせ杏寿郎に「何でしょうか!」と少し前のめりに聞いてくる。
煉「出来る限りのこと、と言ったな?それならば一つ、俺の願いを聞いて貰おう」
見返す瞳が任務中のような真剣な光を含んで輝き、月奈は前のめりだった体を元に戻し居住まいを正す。杏寿郎の表情から安易な考えの願いではなさそうだと感じ取れば自然と姿勢が正される。
煉「俺との結婚を考えて、婚約を結んで欲しい」
思いもしなかった願いに思わず月奈は「はい?」と間抜けな声を出してしまった。
(こん…やく?こんやく?結婚!!?)
意識が戻るまでの数秒間で月奈の頭の中は目まぐるしく働く。傍に居ると誓ったことはあれど、自分が婚約をすることなど想像していなかったのだ、ましてや結婚などと考えたことも無かった。