第26章 居場所
(こんなに穏やかな夜を過ごせることはそう多くはない)
そう思えば眠気など来なければいいと考えてしまう。鬼殺隊にいる杏寿郎は夜の任務が殆ど、それも柱として危険度の高い任務に駆り出されることが多い。
一刻も早く鬼が消え皆が平穏な夜を過ごせるようになって欲しい、しかしその願いは鬼殺隊の隊士達の犠牲が無ければ叶わないこと。その願いを叶える為に毎日身を粉にして任務にあたる鬼殺隊の隊士達の顔が思い浮かぶ。
煉「随分と静かだな。眠気が来たか?」
「まさか。こうして穏やかに杏寿郎様と過ごせる時間を噛みしめておりました。鬼殺隊の隊士達もこんな風に穏やかな夜を過ごしているのでしょうね」
煉「うむ!…鬼殺隊の掲げる悪鬼滅殺、これが実現すればこんな時間は当たり前のように訪れる。その為にまだまだ精進せねば」
真っすぐ前を見る瞳は出会った時から何一つ変わらない、燃えるような強い瞳。何もかも見透かしてしまいそうな瞳、初めて見た時は恐ろしかったことを思い出し月奈はクスリと笑う。
煉「なんだ?可笑しな事を言ったか?」
稀血として生を受け、その為に全てを失った過去。ただただ「絶望」という名の闇に落とされ、抗うことなく生を捨てようとした自分が今こうして笑っている。
「そのような志に私は勿論、どれ程の人達が救われたのでしょうか。それを慢心せず、怠ることなく持ち続けることが大変なことなのか想像に難くありません」
煉「…」
言葉だけではない、その姿勢が周囲を引っ張っていく。杏寿郎が柱たる理由は強さだけではない。どんな時でも折れることなく周囲を励まし共に進もうとする、その精神も杏寿郎の強さ。
少しずつ杏寿郎の心の炎が自身にも灯っていたのだろうか、いつの間にか絶望という闇が遠ざかっていた。それは気付くことも無い程にゆっくりと、確実に。
「ですが、たまには気持ちを緩めて休んでくださいね。人は疲れてしまう生き物ですから」
煉「そうだな。月奈がいなくなった日からずっと気が休まることなど無かった、今も未だある日突然何処かに行ってしまうのではないかと考えることがある」
ぽつりと洩らした言葉。視線を向ければ弱々しく笑う杏寿郎がそこにいた。
「杏寿郎様...」
煉「任務が終わって月奈の姿を見るまでいつも気が気ではない」