第26章 居場所
「無事に任務を終えて帰ってくる、私はそれだけで十分です。蝶屋敷で出会うことも最近は少ないですし。家で少しでも気を緩めて貰えれば、私も嬉しいですから」
蝶屋敷で出会うということは任務中に怪我を負うということ、月奈は手伝いとして働く以上怪我の手当に当たることも多い。見知らぬ隊士であっても酷い怪我を負った隊士が運び込まれてくると悔しくなり悲しくなる。それが見知った顔であれば尚の事。
柱として任務にあたりながら、蝶屋敷に戻れば治療にあたるしのぶは、怪我を負って悔しい隊士の気持ちも、治療にあたる蝶屋敷の人間たちの悲しさも分かっている。
毎回任務の時に運び込まれる人間の中に見知った顔を見つけないように願うこともまた辛いことだろう。
し「そうですね。休暇の過ごし方はそれぞれ、ですね」
「次の休暇にはしのぶさんと蜜璃さんと、また甘味処に行きたいです!沢山お話したいです!」
綺麗に仕分けられた洗濯物に囲まれながら、ビシッ!と手を上げた月奈にしのぶは虚を突かれたように目をパチパチと瞬かせる。その表情を見てニコリと笑う月奈につられ、しのぶも微笑んだ。
し「えぇ、是非」
夜の帳が下りた静かな中、コトリと筆を置いた月奈は羽織を持って庭に続く障子を開く。月明かりが庭を照らし、空は深い紺色から藍色へと変わりつつある。
「もうじきに夜が明ける…任務は無事に終わりそうかしら」
鬼殺隊に所属していたからこそ分かる任務の不規則さ。鬼の活動時間は夜でも、任務地によっては早々に鬼殺が完了して帰宅できる場合もある。その逆、厄介な鬼が相手の場合は任務完了まで野営の場合もある。
ぼんやりと空を見上げていた視界の端で影が動き月奈は視線を動かすと、ゆっくりと腕を上げた。
「おはよう要」
腕に停まった要に挨拶をする。じきに帰る、もしくは野営になった、どちらかを伝える為に要を飛ばしたのだろう。指先で喉元を軽く擦ると目を細める要に特に変わった様子は無い。
「帰ってくるならお出迎えしないとね」
小さく相槌を打つように鳴いた要を肩に乗せたまま、月奈は玄関へと足を向ける。台所で湯を沸かし始めた頃、玄関の戸が開く音がした。杏寿郎の帰宅だ。
「お帰りなさい、杏寿郎様。任務お疲れさまでした」