第26章 居場所
「矛盾だ、なんて少し腹が立ったこともあります。断ろうとすれば待ったをかけられるし、鬼殺隊には戻るなといいながらいざという時には戦闘要員として蝶屋敷を守れだなんて」
苦笑して肩をすくめる月奈に杏寿郎も苦笑を返す。
腹を立てることも矛盾だと責め立てることも当然だと杏寿郎自身も思っていた、天元が言っていたことは杏寿郎もしのぶも分かっていたことだ。
謝罪を口にしようと開いた瞬間、月奈がそれよりも先に話し出す。
「ですが、杏寿郎様もしのぶ様も槇寿郎様も私の性格を知っていてどうしてこの話を提案したのか、そもそもこんな矛盾の生じる話を簡単に話してくるなんてよく考えれば有り得ない話でした」
実弥様のおかげで冷静になりました、と笑えば杏寿郎は首を傾げた。どうやら、しのぶの独断で送り込んだ聞き役もとい説得役だったのだろう。月奈は、しのぶ様のお気遣いです。と付け加えて話を続けた。
「鬼殺隊で動くには役不足だと、私自身ずっと感じていました。だからこそ戻りたいというのは余りにも軽率だと分かっていますし、言うつもりもありません。それは杏寿郎様の傍に戻って来ることを決めた時に覚悟しました。でも、皆が戦っている時に家でのうのうと過ごすことも出来ない自分の性格に不安があったのです」
煉「不安?」
「鬼殺隊にいたのだから、鍛錬を積んだのだから、私だって戦える。なんて飛び出していきそうな自分に不安がありました。ともすれば覚悟が瓦解して鬼殺隊に戻りたいと言ってしまうかもしれない、と」
(分かっていたとは言え、そんな表情で見られると少し心外だわ)
自覚していたのか、と感心するような表情の杏寿郎。見抜かれていたことに悔しくなりじろりと視線を向ければ、ハッと表情を戻し「すまない」と杏寿郎は呟いた。
(謝られた…それもそれで私の心中は分かりやすいと言われたようで悲しいわ…)
読まれやすい自身の行動にトホホと嘆息をつく。しかし、杏寿郎からすれば予想以上の成長に感心する他無かった、勿論表情には出ないように気を付けながら…。
煉「それで?その気持ちが口から出たからといって戻れるとは思っていまい」
杏寿郎の真面目な声音に顔を上げると、強い視線とぶつかった。月奈は自然と姿勢を正し、真っ直ぐと目を見るとコクリと頷いた。