第26章 居場所
少しつんのめった勢いで、月奈はそのまま杏寿郎の部屋へと歩き出す。
(誰よりも私の性格を分かっていて、こんな提案をすることが簡単だったはずがないってよく考えれば分かることだったのに。色んな事を話すって決めた矢先から反故にしていたわ)
少し足早に廊下を進んでいった月奈の後ろ姿に満足げに笑った実弥は庭ではためく白いシーツを横目に、抱えた籠を返すべく月奈とは反対方向へとゆっくり歩きだした。
「…意気込んで来たものの…」
どうしよう、と呟いた月奈の視線は穏やかに眠る杏寿郎に向いている。今起こして話すことでもないだろうし、もう少し後でも…そう思い踵を返そうと動いた瞬間に杏寿郎の目がパチリと開いた。
煉「む!いつからここに居た?気付かず眠って居たとは…」
「すみません、起こしてしまいました…。まだ本調子ではないのでゆっくり休んでください」
体を起こそうと動いた杏寿郎の背に手を当て支えると、すまないなと苦笑が返ってきた。普段よりも動きがやや鈍いのは、やはり傷が痛むからだろう。
煉「手伝いは一段落したのか?」
「そうですね、なので杏寿郎様の様子を伺おうかと。よく眠っていらっしゃった所を起こしてしまい申し訳ありません」
ベッドの脇にある椅子に腰掛けた月奈を見て、杏寿郎は少し表情を緩める。先日の矛盾した提案について怒っているのではないかと心配だったのだ。普段と変わらない様子の月奈を見るに怒りは見えない。
ーそれよりも表情が随分とスッキリしたような…。
「あまりじっと見ないでください。穴が空いてしまいます」
煉「どうやら、先日の提案について決まったようだな。スッキリとした表情になった」
「え?そうですか?」
ペタリと頬に手を当てるが、鏡があるわけでもないので自分の表情を確認できない。しかし目の前の杏寿郎は穏やかに笑っているので、すんなりと納得できた。提案について心が決まったことは確かなので表情に現れていたのかもしれない。
「先日のしのぶさんからの提案、どうして杏寿郎様がゆっくり考えるように私に言ったのかをずっと考えていました。槇寿郎様にも同じことを言われて、この提案は断ってはいけない事なのかと。そう考えて悩んでいました」
ゆっくりと話し出した月奈に視線を向け、静かに耳を傾ける。