第26章 居場所
槇「それを言うと、蝶屋敷で引き取っている子供たちも迷惑をかけていることになるが…そういう事ではないだろう」
言い訳を探すように視線を彷徨わせた月奈に、槇寿郎は溜息をこっそりと吐く。実はしのぶの鴉から聞いたことはもう一つあった。
ー引け目からなのか、随分と自分の気持ちを隠すようになってしまった。これでは以前の鬼殺隊に居た頃の月奈より酷い状況なのではないか。
槇「何をそれ程躊躇う?手伝いたいならば手伝いたい、そう言えばいい。本当に断りたいのならば胡蝶にハッキリと伝える、それで済む話だったろうに」
「断りを…しようとは思ったのです。ですが杏寿郎様がゆっくり考えてから答えるように、と言われてしまいまして」
なるほど、と槇寿郎は心の中で呟いた。杏寿郎の心理としのぶが願っていることが一致していたのだろう、そして月奈自身が断りの言葉を上手く出せなかったことで確信となったからこそ、その場での回答をさせなかったのだ。
槇「そうだな、杏寿郎の言う通りだ。ゆっくりと落ち着いて考えると良い。蝶屋敷に通う間に何か気付くこともあるだろう」
「気付く事、ですか?」
首を傾げた月奈に苦笑したところで廊下から千寿郎の足音がこちらに向かって来る。夕餉の準備が完了したのだろうか、と考えていると千寿郎が襖を開いて顔を覗かせた。
ーまさか、杏寿郎は狙って怪我をしたのか…蝶屋敷に呼ぶために…
まさかな、と首をゆるく振った槇寿郎は相変わらず「よく分からない」とでも言いたげな表情の月奈の頭に手を置く。
槇「もう夜も遅い。早く夕餉を食べて寝なさい」
その言葉を聞いた月奈は、自分の鼻をくすぐる良い匂いに気付きぐぅぅ、とお腹を鳴らした。