第26章 居場所
月奈さんはゆっくりしてくださいね。と言い置いて千寿郎は一人、台所へと向かっていく。普段から煉獄家の家事は千寿郎が担っていることを考えれば当たり前の行動だろう、しかし言葉通りゆっくりすることは出来ない。月奈は改めて槇寿郎に向き直ると、お茶を啜っていた槇寿郎は視線を湯呑みに落としたまま口を開く。
槇「杏寿郎が悪かったな」
想像していたどれとも違う言葉に月奈は驚いた。槇寿郎から怒られはしても謝られることなど思ってもみなかったからだ。
「いえ、こちらこそまさか槇寿郎様に詳細が伝わっていなかったとは思わず、直接蝶屋敷に向かってしまい申し訳ありませんでした。なにはともあれ、杏寿郎様も大事なく私も無事に到着出来ましたので一安心です」
槇「まったくだ。誰一人連絡をよこさんとは…。それにしても初日から杏寿郎が入院とはな、あいつは何をしているんだ」
「任務中に怪我を負ったようです。しのぶさんの帰宅許可が下りるまでは私が世話に通おうかと思っています」
すまないが頼む、と槇寿郎が頷きながら湯呑みをちゃぶ台に置くと一つ息を吐いて月奈に視線を向ける。以前と変わりのない目力の強さに自然と背筋を伸ばした月奈に合わせるように槇寿郎も姿勢を正した。
槇「そのことで一つ、胡蝶から鴉が来てな」
「しのぶさんからですか。何の話か予想が付きました」
恐らく、蝶屋敷で提案された事についてだろう。杏寿郎の事でもそうだったが、行動の早いしのぶについ苦笑してしまう。
槇「鬼殺隊には戻らないと言ったそうだな。それは構わんが、提案があったようだな。それについてはどう考えている?」
「蝶屋敷でこれからもお手伝いを続けて欲しい、それがしのぶさんからの提案でした。ですが、鬼殺隊でもない人間がそこまで深入りして良いのかと思いましたのでお断りを…」
そう言いかけた時、月奈は何かがつっかえるような気がして喉を押さえる。
(しのぶさんに断ろうとした時も言葉が出なかった。だから杏寿郎様が…)
槇「己を滅するのは鬼殺隊隊士として当然のことだが、今の月奈に己を滅する必要は無いはずだ。胡蝶や杏寿郎に言われなかったか?」
「…言われました。ですが…なんというか、私の我儘でご迷惑をおかけするのではないかと。お館様にも申し訳が立ちませんし」