第26章 居場所
ア「しのぶ様、そろそろ夕餉を皆に配らないと…」
しのぶの傍らに座ってじっと話を聞いていたアオイはそう告げると、尋問のようなこの会はお開きになった。ようやく終わった、とホッと胸を撫で下ろした月奈に、しのぶはニコリと微笑み月奈の肩に手を置いた。
し「では、最後に一つお願いが…」
お願い?と月奈が首を傾げたところで、アオイが部屋の押し入れから風呂敷包を取り出して月奈の前に置いた。「丈は直したんだけれど…」と言って開いた包の中身を目にした瞬間、しのぶのお願いの内容を察する。
「分かりました。お手伝い致します」
千「月奈さん!…えぇと、お疲れ様でした?」
廊下を歩いていた月奈は、向かいを歩いて来た千寿郎に呼び止められる。余程疲れた顔をしていたのだろうか、千寿郎は少し心配そうな表情を浮かべていた。
「まぁ、それなりに…。杏寿郎様の入院道具を持ってきてくださったとしのぶさんから聞いています。家に戻った矢先のとんぼ返りだったのでは?」
この疲れの一端である千寿郎に少し恨めしい目を向けながらも、ある意味で振り回されている境遇は一緒なので責めきれない。それに、いまネチネチと小言を言う暇は無い。
千「え、えぇ。まぁ、いい鍛錬になったと思えば問題ありません。ところで、その恰好は?」
「人手が足りないようで、お手伝い要員になりました」
さらりと話す月奈は白色のワンピースを身に着けている。それはこの蝶屋敷で働く人が着ている服だと千寿郎は気付く。どうやら本当にお手伝い要員になったようだ。鬼殺隊員ではないのに?と言いかけた千寿郎だったが、小さな女の子三人に声を揃えて名を呼ばれたため高い位置で結った髪を揺らしながら走り去る月奈に何も言えなかった。
千「…楽しそうだから良いのかな」
―結局のところ、全て蟲柱様の思惑通りになった?
呼び出す理由に些か間違いはあったものの、いずれ呼び出すつもりだったしのぶからすれば手間が省けたはず。そして、こうして傍に置くことに成功している。そこまで目論んでいたのかは分からないが、月奈が居なくなってからその身を心配していたのは杏寿郎だけではなく、しのぶも勿論のことだった。