第26章 居場所
し「月奈、煉獄さんの入院に必要な物は鎹鴉で弟の千寿郎さんにお伝えしました。荷物を持って直にこちらに向かうようです」
「そうなのですか?私が煉獄家に向かおうと思っていたのですが…」
病室から出ると、しのぶがアオイとともにこちらに歩いてくるのが見えた。どうやら月奈が杏寿郎と話している間にしのぶが鴉を飛ばしたらしい。
し「月奈には聞きたいことが沢山ありますから、心苦しいですが荷物は千寿郎さんにお任せしました」
ニコリと微笑まれ月奈は何かを察する。大人しくしのぶについて行く、それしか選択肢は無いようだ。月奈の顔を見て満足気に頷いたしのぶは、ついておいでと手招きをして廊下を歩いていった。
千「兄上、入院道具を持ってきたのですが...あれ?月奈さんは?」
しのぶの鴉から伝えられた着替え等を包んだ風呂敷を抱えた千寿郎は、室内をキョロキョロと見回す。自分に連絡が来たならば月奈は兄の杏寿郎の傍にいると当たり前のように思っていた。
煉「荷物を取りに家に戻ると言っていたんだが、千寿郎が持ってきてくれたんだな!すまない!」
千「蟲柱様の鴉から伝えられた物を一式持ってきたのですが、それ程長期の入院ではないようで安心しました。それで月奈さんはどこに?」
煉「家に戻ったわけではないということは、今頃胡蝶に捕まっているかもしれんな!」
ハハハ!と大きな声で笑う杏寿郎に、千寿郎は少し困った表情を向ける。原因は十中八九この兄なのだろうに、今頃は根掘り葉掘り聞きだされて困っている月奈が目に浮かぶ。
ー呼び出しに加担した俺も俺だけれど、兄弟揃って振り回す結果になって申し訳なくなってきたなぁ。後で謝ろう…。
今日は煉獄家への引っ越しだけだったはずが、予定とは異なった事態になってしまった。そもそも月奈が煉獄家に戻れていない。
し「あらあら、もうこんな時刻ですか。随分と話し込んでしまいましたね」
そう言って障子から差し込む光に目を細めたしのぶの頬は夕焼けで朱く染まる。向かい合って座る月奈はすっきりした表情のしのぶとは対照的にげっそりとしていた。
(話し込んでいたというより、ただ一問一答をひたすら繰り返していたような…)