第26章 居場所
呆れた、とでも言いたげなしのぶの表情を見て月奈はハッとして首を振る。
(違う違う、今気にすべきところはそこじゃなかった)
「杏寿郎様のケガは頬だけですか?」
し「いえ、それと…」
煉「頬だけだ!問題無い!」
明らかな遮りに月奈は訝し気な視線を杏寿郎に送る。嘘を見抜く能力が無い月奈でも分かる怪しい言動、隠そうとして逆に「嘘です」と言っているようなものだ。
「…しのぶさん、入院の必要はありますか?」
し「出来れば、少し休養は必要かと。ご自宅に戻ってもよろしいですよ」
「いえ、ご迷惑でなければ蝶屋敷で休養して頂いた方がいいかと。家に戻ると鍛錬を始めそうですからね」
鍛錬は困りますね、としのぶは頷きアヲイを呼んで病室の準備をするように指示を出す。当の本人である杏寿郎は、女二人の間で進んでいく話に口を挟むことも出来ずいつの間にか入院着を渡され病室へと入れられた。
煉「…」
「杏寿郎様、私は一度煉獄家に行って参ります。入院に必要なものを揃えてまた戻ってきますが、他に何か必要なものはありますか?」
とんとん拍子に進んだ入院に呆気に取られていた杏寿郎は、目の前で「おーい」と手を振られハッと意識を取り戻し月奈の腕を掴む。突然電源が入った杏寿郎に月奈は驚きつつも「すぐ戻ってきますよ」と微笑む。
煉「よもや、こんな日に入院とは…すまない」
しょんぼりとしてしまった杏寿郎は、眉を下げまるで千寿郎のようだと感じつい噴き出してしまった月奈は肩を震わせながら「すみません」と謝る。
「お怪我をされているならば仕方の無いことです。この際ゆっくり休養なさってください」
煉「しかしだな…それ程酷い怪我ではないのだが」
そう言いながら脇腹を擦っている杏寿郎だが、診察の結果は頬の擦り傷の他、肋骨の骨折及び打撲で要治療だった。しかし日常から鍛えているからなのか、鬼殺隊の人間は回復が早い。呼吸による止血や毒の巡りを遅らせることも可能だと聞いたことがある。
(まぁ、私は呼吸を使えないからよく分からないけれど。ただそういうことが出来るからといって万能では無いとも言っていたわね)
「とにかく、入院の間私は毎日こちらに通いますから鍛錬等で体を酷使しないでくださいね。しのぶさんに怒られますよ」
煉「それは困るな!」