第26章 居場所
少し困った表情で迎えにくるよう言われた経緯を話した千寿郎に月奈は困ってしまった。まるで情報が無い状況なのだ。
「街に向かう道中で私の所にも要が来ました。伝えられたのは”街で千寿郎さんと合流すること”と”その後蝶屋敷まで来るように”この二点しか言われていません」
杏寿郎が迎えに来ないことも疑問だが、何故蝶屋敷に向かえと伝達が来たのか。しかも伝達役は杏寿郎の鎹鴉の要だったことを考えれば杏寿郎に何かあったのかと考えるのが普通だろう。
「杏寿郎様は昨夜任務に就いていたはず、何か怪我でも負ったのでしょうか。とにかく、蝶屋敷へ向かいましょうか」
月奈は頭の片隅で何か引っ掛かりを感じていた。しかしその引っ掛かりを考えている時間は今は無い、とにかく蝶屋敷へと向かえば理由がハッキリするはずだ。そう思い立ち上がった月奈の背を見ながら千寿郎はこっそりと手を合わせて呟いた。
ごめんなさい、と。
蝶屋敷に到着した瞬間、月奈は笑顔のしのぶに出迎えられまずい状況だということに気付いたと同時に頭の中の引っ掛かりにようやく気付く。
し「久しぶりですね月奈」
「お、お久しぶりですしのぶさん。あの、えぇと…」
だらだらと冷や汗をかく月奈に、あらあらと微笑みながらハンカチを差し出すしのぶ。相変わらず綺麗な顔だと月奈は間近に迫るしのぶをつい見つめてしまう。
(って見惚れている場合じゃないわ!!)
慌ててしのぶの顔から視線を逸らし、診察室の椅子に座る杏寿郎に視線を向ける。しかし視線が合わない、表情はいつものように口角を上げて笑っているが視線だけは意地でも月奈と合わせないように逸らしている。
(合わせない、じゃなくて合わせられないのね。この状況だもの…しかも、千寿郎君も手を組んでいたなんて!!やられたわ!)
蝶屋敷に到着してすぐ、示し合わせたようにしのぶが現れ千寿郎が去って行った。それもいつも以上に申し訳なさそうな表情で。
「…あの事があって以降一度も連絡せず申し訳なかったと思っています。まさか杏寿郎様からもその後の話が無かったとは思っていませんでしたので」
し「本当にあの後の月奈について情報も無く、煉獄さんと任務が重なることも無かったのでこちらとしては随分とやきもきさせられました」