第26章 居場所
「お世話になりました師範」
そう言った月奈は玄関で向かい合う長谷に笑顔を向けた。鬼殺隊を抜け、婚家を追われたからずっと面倒を見て貰っていたこの家を今日出て行く。
長「なんだか嫁に出す気分だね。…同じようなものか」
少し寂しそうに笑う長谷に、顔を赤くした月奈は「違いますよ!」と慌てて否定する。
「まだ嫁ぐわけでは…というよりも一度嫁に行っているので…今更では?」
あはは、と苦笑した月奈の頭にポンと手をのせると長谷は優しく撫でてやる。鬼殺隊を抜ける為に利用した縁談だったこと、婚家を追われるまでにその代償を受けたこと、その詳細をハッキリとは聞いていないが辛いこともあっただろう。
長「…その件はもう代償を支払ったんだ。気にすることはないさ。鬼殺隊に戻るのかい?」
「いえ、私は一度抜けているので戻ることはないのですが…ただでお世話になるわけにはいかないのでゆくゆくどこか働きに出る予定です」
忙しい子だな、と長谷が笑うと月奈は苦笑する。じっとしていられない性分であることは幼い頃から知っているはずなのだから。
長「何はともあれ、またいつでも寄ってくれ。子供たちも寂しがっていたからね」
世話になっている間、長谷の運営していた道場で子供たちの体術訓練を見ていた月奈は少し寂しいと感じていた。でもいつでも会いに来ればいいのだ、来ることが出来なくなるわけではないのだから。そう思えば寂しいという気持ちも少し和らぐ。
「はい!では、師範お元気で!」
千「月奈さん!」
待ち合わせ場所に指定した茶屋の前に到着すると、中から千寿郎が手を振る姿を見つける。待たせたことを謝ると、今来たばかりですからと席を勧められる。
「わざわざ街まで迎えに来て貰ってすみません。私一人でむかおうと思っていたので驚きました」
千「僕も兄上から聞いて驚きました。突然街まで月奈さんをお迎えに行って欲しいと言われたもので」
そう言って苦笑した千寿郎の様子を見る限り、本当に急な話だったのだろう。元々は杏寿郎が迎えに来る予定だったのが急遽変更になったので仕方がないといえばそうかもしれない、とため息を吐く。
「それで、杏寿郎様は?大丈夫なのですか?」
千「それが...」