第25章 求めたもの
煉「その理由に思い至ったのは月奈が姿を消してしばらくしてからだったがな」
全てが鬼殺隊もとより杏寿郎の為と思い辛苦を堪えてきた月奈。大切な物や人を守る為ならば、と思い続けてきた。
煉「大事な物は持っていなければ大事に出来ない。手放したら守ることすら出来ないんだ」
「私はもう全て手放してしまいました…大事にしたかったのに、間違ってしまいました」
煉「まだ取り戻せるんだ、生きているんだから。それに…俺が贈った簪は手放していなかった」
街でぶつかった拍子に落とした後、しのぶの手により月奈の元に戻ってきた簪。まるで杏寿郎のようだと思うとこれだけは手放す事など出来る訳がなかった。
「あの時しのぶさんが拾ったのなら、煉獄様にも見られていて当たり前ですね」
胸元から簪を取り出して見せた月奈に、杏寿郎はポツリと聞いてきた。
煉「婚姻を結んだ時にどうして捨てなかった?」
「わ、忘れていただけです」
煉「忘れていた?男から簪を贈られる意味を知らないわけではあるまい、胡蝶から聞いたはずだ」
ぐっと言葉に詰まる月奈の姿に杏寿郎は更なる追い打ちをかけるべく口を開いた。本心を引き出すまであと一歩というところだろうか、そんなことを考えながら。
煉「俺を忘れたくないと言いながら他の男に嫁ぎ、それでも簪を捨てられず、自分は死んでも俺には死ぬなと、随分な矛盾を言う。それでいて大事な物ほど手放していったことを後悔している」
杏寿郎の口から語られる嘘偽り一つない事実に月奈は己は本当に何がしたかったのか分からなくなっていく。唇が震え、何かを紡ごうと口を動かしても声が出てこない。
煉「これ以上一人になるな。自分の気持ちを蔑ろにするな。そして、後悔の無い選択をするんだ」
本当にそれでいいのか、幾人にも言われてきた言葉。
自分の声を聞いていないのは結局自分だけで、周りは分かっていたのだ。
「私、は…」
何を願い自分の気持ちを後回しにしたのか。
自分は本当は何を願っていたのか。
毎晩静かに眠りたい。
一人になりたくない。
死にたくない。
助けて欲しい。
幸せになりたい。
その為に必要な物に思い至ったとき、月奈は「なんだ」と呟いて笑った。