第25章 求めたもの
煉「目の前で死ななければそれで良かったか?」
「…え?」
煉「見知らぬ場所で死んでいく人間は山ほど居る。先程まで笑っていた人間が帰らぬ人となる、その危険性は一般の者よりも鬼殺隊で任務をこなす俺達の方が多いだろう」
「それは勿論、覚悟をして…」
煉「果たして、後悔が少ないのはどちらだろうか?」
月奈は答えに詰まった。そんなことまで考えが及ばなかったのだ。後悔が少ないはずの選択だった、自分が離れることで誰かが死ぬ場面を見ることは無いのだと。自分の非力のせいで誰かが死ぬことも無くなるのだと。
(けれど…)
煉「人間いつかは死ぬ、それは変わりようのない事実だ。いつ何があるか分からないからこそ、その時まで愛した家族や恋人と幸せに暮らしたい」
「…っ!」
腕を掴まれ月奈は咄嗟に体を引く。しかし強い力で腕を引かれれば呆気なく杏寿郎の胸に倒れ込んでしまう。
煉「だからこそ、俺は君と約束した。互いが帰る場所になろうと」
「それは…もう…」
失くした約束だ。そう言いかけた時、杏寿郎の手が背を優しく擦った。杏寿郎の手の温かさに月奈は言葉を最後まで言えなくなる。優しいはずの温もりが今の月奈には、自身の選択の間違いをひどく責められているように感じてしまう。
(後悔の無い選択をしてきたはずなのに、私はいつから間違っていたの…)
煉「俺も甘露寺達も怒っているのは、鬼殺隊を抜けた事でも忽然と姿を消したことでもない。君が君自身を大事にしないからだ。俺でなくとも誰かが傍にいれば自分を大事にするだろうと…他の誰かと婚姻を結んだことも理解しようと思ったんだが」
「私自身を…大事にしない?これ程自分勝手に生きている私が?」
煉「自分勝手のようでいていつも他人のことを考えて動いているだろう。鬼殺隊に迷惑をかけないように、煉獄の家に汚名を着せないように、差し詰めこの辺の理由で鬼殺隊を抜けたと予測はしていた」
ある意味では自分勝手かもしれない。しかし自分本位でのものではなく、結局は他人の体裁や周囲への外聞の為であることが明らかな理由だった。