第25章 求めたもの
初めてきちんと聞いた自分の声はたった一つのものを求めていた。大人にならなければ、周囲に恥じない人間にならなければと背伸びしていた自分が到底受け入れることの無かった多くの願いはそれ一つで解決していたのに。
自分の犠牲で周り全てが幸せになるなど随分自己犠牲的で傲慢な生き方だ。それにも増してあまりにも子供だ。
察して欲しいとばかり願っていた自分が浮き彫りになる。
「杏寿郎様」
顔を上げれば、静かに視線を返す杏寿郎がそこにいた。
きっと敏いこの人は自分が何を言うのか分かっているのだろう。
「杏寿郎様のお傍にいたいです。死ぬその瞬間まで」
すっきりとした表情で自身の願いを口にした月奈に、杏寿郎は穏やかに微笑んで抱き寄せた。
煉「今度こそ、反故にするのは無しだ!勿論、俺も反故にはしない」
「反故はお互い様ですからね!」
煉「むぅ!?」
お互いに約束を反故しようとした過去を思い出し、結局はどっちもどっちと思い至った二人は苦笑し合う。
煉「お互いに精進しよう、離れることがないように」
「そうですね」
離れていては大事に出来ないのだから。
そう言った月奈はとてもすっきりした表情で笑っていた。