第25章 求めたもの
「煉獄様には本当に良い縁が出来ると思っていたのです。私の事など些細な思い出にでもして貰えれば私は幸せだと」
新しい拠り所が出来たならば杏寿郎はきっとそれを大事にする。たとえ私のことを完全に忘れたとしても自身が覚えていれば良いのだ、と考えていた。
カナヲから薬を飲まされかけた時、全てを忘れて楽になるという解放の道の一方で、自分と杏寿郎の思い出が誰にも知られる事無くただ霧散する恐ろしい道が現れ怖くなった。忘れることが楽になる道に通ずる訳では無いと月奈自身は知っていた、家族を失った日からずっと。
「私が普通の人間だったなら、と願うばかりでした。稀血でも無く、家族が揃い、傷一つ無い身体だったならと毎日思っていました。そんな考えても仕方の無いことばかりを日々考え、何もせずただただ鬼殺隊からの弟を鬼殺したという報告を待ち続けて...疲れ果てたのです」
全てが終わった今ならば、死ぬことも許されるのではないか。そう思ったら気持ちが楽になったのだ。
煉「自身の気持ちをどうして蔑ろにした。その抱えた気持ちを吐露する場所が無ければただ闇に呑まれていくばかりだろう!」
「言えません!全て私が選び取ってきたならば、最後も私が始末をつけるべきなのですから!」
一人で死ぬことは恐くなかった。ただ自分が周囲を巻き込んで不幸にすることが恐かった。関わって欲しく無いのに鬼殺隊の皆との関わりを断つことが出来なかった自分はなんと情けないのかと自己嫌悪にも陥った。
煉「放っておけまい。助けて欲しいと言われて助けない人間など鬼殺隊には居ない!もがいて深みにはまっていく月奈をただ見ているだけでどれだけ歯痒いことだったか。黄色い少年が言っていたな、助けて欲しいと言えばいいと」
俯いた月奈の顔は、伸びた髪が覆い表情が見えない。杏寿郎は手を伸ばし髪を避けると冷えた頬に指を滑らせる。
月奈は顔を上げたが、杏寿郎が予想した表情ではなく唇をギュッと噛んで悲しそうな表情をしていた。その表情のまま首を横に振った月奈に杏寿郎は「何故だ?」と静かに問い掛ける。
「大切な人達が目の前で死んでいくことはもう嫌なんです」
煉「鬼殺隊は命懸けの仕事だ。そのことは月奈自身が分かっているだろう」