第25章 求めたもの
煉「怒っている、それだけではないが…怒っているのも事実だな!」
(うわぁぁ…ですよね。心当たりがあり過ぎてどこから謝るべきか分からないわ!)
「…えぇと、本当に色々とご迷惑を…」
煉「...どうやら何に対して怒っているのか分かっていないようだな!」
ギクリと肩を揺らした月奈を膝から下ろし向かい合うと、燃えるような瞳に見つめられた月奈は背筋をピンと伸ばしてゴクリと唾を飲んだ。
煉「言いたい事は沢山あるんだが。弟の鬼殺後、本当に"楽になる"つもりだったな?」
強調された言葉に月奈は膝の上で重ねた手をギュッと握る。この聞き方は既に分かっていると言うことだろう、ここで余計な誤魔化しをしても無駄、寧ろ更に状況を悪化させることを感じた月奈は一息置いてゆっくりと頷いた。
「間違いありません。でもいつから気付いて...?」
煉「柱合会議の日の発言が気にかかってな!胡蝶も違和感を感じていたようだ!」
普通、事が済んだ状態ならば過去の話として礼を述べることが多い。それなのに月奈は先の話のように語った、"楽になれます"と。それはつまり...
煉「全てが終わった今、自分も楽になろうとしたということだな」
確かにそうだった。何もかもを失くした自身に生きる希望は見出せず、毎日を一人で苦しみながら生きていくなんて地獄でしかない。それならばいっそ、そう思ったのだ。
夢の中で月哉と蒼樹に闇に引き摺り込まれる瞬間にいつも考えていたことだった。
「あの二人を鬼にした私がのうのうと生きていくなんて、そんなこと出来ないんです。あの二人が呼んでるならば、せめてもの償いとしてあの二人の元に行くべきなのかと」
煉「ならば残される人間の気持ちは関係無いのか?残される人間の気持ちは十分に分かるはずだろう?」
「それは...」
両親と弟を一度に失い記憶を失う程の絶望を味わった月奈。それだけではなく、鬼となった弟を鬼殺する決断を下さざるを得なかったことは本人にとってどれ程の苦悩だっただろうか。それをおくびにも出さず柱達に頭を下げた月奈は15の少女のそれではなかった。
煉「どうやっても失った命は戻らない。俺との約束は距離を置くことで立ち消える物なのか?」
互いが帰る場所になる。それ即ち生きて拠り所になるということ。