第4章 行く先
店主としのぶは熱心に会話をしているようなので、月奈は簪の並べられた棚に近寄る。
(どれも綺麗。べっ甲もいいけれど、とんぼ玉のものも発色がとてもきれいだなぁ。あ…)
ふと目に入った簪を手に取り天井の照明に透かすと、キラキラと光輝いた。
色は黒がメインだが、表面にはオレンジ色のとんぼ玉が花の形に埋め込まれている。
(まるで煉獄様のような色…赤のトンボ玉が入っていたら、まさに煉獄様だ)
煉「気に入ったのか?」
突然天井と簪の間に煉獄の顔が現れ、月奈は小さく「ひぇっ」と声を上げる。
煉獄様のような色合い、とは絶対言えない。
「綺麗な装飾だな、と思いまして。キラキラして素敵ではありませんか?幼い頃はよく小間物屋が家に訪れていたので、様々な細工の品物を見せて貰うのが楽しみだったのを思い出します」
懐かし気に目を細め、簪を棚に戻す月奈は少し寂しそうでもあった。
ごく稀に買ってもらえた髪飾りや着物の反物等をとても喜んだ覚えがある。生家に行けば何か残っているかもしれない、形見として持っていたいものは沢山ある。でも、あのような事があった屋敷に行く勇気が月奈には無かった。
し「月奈、気に入ったものがあれば言ってくださいと話したではありませんか。その簪が気になるのですか?」
スイッと先ほどの簪に視線をやるしのぶ。
決して安いものではないのだ、欲しいなどと言えない。
「ち、違いますよ!綺麗だな~と思って見ていただけですから!!あ、店主さんとのお話は終わったのですか?終わったなら屋敷に戻りましょう!煉獄様も!」
慌ててしのぶの肩を掴み、後ろからグイグイと押して強引に店の外に押し出す。
少し遅れて煉獄も店から出てきたところで、月奈はホッと息をついた。
(心臓に悪いよこの2人…欲しいって言ったらなんでも買ってくれそうなのが怖い)