第25章 求めたもの
(何か、くすぐったい…)
月奈はフワフワと顔に当たる何かにくすぐったさを感じ目を開いた。フワフワの正体に気付いた月奈は残っていた眠気が吹っ飛ぶ勢いで驚く。
「なっ…!!?」
叫び声を上げかけた自分の口を慌てて塞ぐと、状況把握をしようと周囲を見回してみる。そうだ、ここは自分がとっている宿だ、と把握して改めて視線を戻す。目の前に杏寿郎の寝顔があることに月奈は昨日からの記憶を呼び起こしてみた。
(…そうか。あれから杏寿郎様が居たから…)
嫌な夢に魘されることもなく眠れるのは決まって杏寿郎と眠る時だった。関係を終わらせて鬼殺隊を抜けてから、こんなに穏やかに眠れる日は無かったことに皮肉を感じて月奈は苦笑する。
(忘れるように努力して、自分で自分の首を絞めていただけだったのね)
「それにしてもこの状態はどういうことなのかさっぱりだわ」
自分の顔にかかる杏寿郎の髪がくすぐったいと感じた原因であることは分かった。しかし、自分はいつから杏寿郎の膝に抱えられて眠っていたのか…
(胡坐とはいえさすがに足が痺れてしまうんじゃ…)
モゾモゾと杏寿郎の腕から抜け出そうと動いた瞬間、目の前の杏寿郎の瞳がバチリと開き月奈は今度こそ叫び声を上げた。
「わぁぁ!!」
煉「む!?どうした月奈!」
(久しぶりすぎて心臓に悪いこの目に驚いちゃったわ…)
目をパチパチと瞬かせた杏寿郎は、窓から射しこむ日光に目を細める。鮮やかなオレンジ色の髪が日光に当たりキラキラと光っているのを見て綺麗だと月奈は思う。
手を伸ばして髪に触れれば、杏寿郎が窓から月奈に視線を戻す。言い表しがたい感情がこみあげて来るのとともに涙が浮かぶ。
涙を見られぬように杏寿郎の首に手を回して抱き着けば、優しく抱きしめ返され「どうかしたか?」と問いかけられるたが、月奈は抱き着いたまま首を横に振る。
「なんでもありません。…その、今まですみませんでした」
煉「さて、何に謝っているのか俺には分からん!」
ハッキリと言い返された言葉に驚き体を離すと杏寿郎はニコリと微笑んでいた。しかし、背中に回された腕には笑顔とは対照的に力がこもっていることに気付き月奈は「怒っていますか?」と口を滑らせた。