第24章 誤魔化し
宿に入った月奈は深い溜息をついて座り込む。
後悔しないように、とお館様に言われたが、今日あの場に行くべきではなかったと早速後悔していた。
「本当の気持ちばかり探ろうとするのね。正直になっても良い事など無いことは皆分かっているはずなのに」
縁談相手を好きになろうと努力をした。杏寿郎を忘れ普通の人間として生きていくのだと覚悟をした。それでも因果なのか、自分が受け入れられることは無かった。
(叶わぬ恋を秘めて嫁ぐ女性は珍しくもない。私も変わりないはずだったけれど、これほどの傷物では相手だって嫌がるのは当然よね)
布団の上に準備されていた浴衣に着替えながら、部屋に置かれた姿見で自分を見る。胸の傷は薄くはなったがやはり完全に消えることは無かった、背中の傷は自身では見辛いがこれも一生消えることは無いだろう。
一番醜く残ったのは肩の傷だ。蒼樹に噛みちぎられた傷は、治癒の為肉が内側から盛り上がりお世辞にも綺麗な肌に戻ったとは言えない。撫でれば隆起した肉がボコりと浮き出ているのを手で感じられる程だ。
「鬼殺隊に居る時はこんな傷当たり前だったけれど、こんな体を見てギョっとしない人は居ないわよね」
苦笑した月奈は襟元をしっかりと合わせて浴衣を着る。こんな時にいつも思うことは決まっている、杏寿郎だけが受け入れてくれていたと。
「そうだ、簪…良かった、しのぶさんが拾ってくれていて」
失くしたと思っていた簪が手元に戻ってきた安心感で、あの場で少し泣きそうだった。杏寿郎との思い出までも失くしてしまったと感じて落ち込んでいたのだ。
光を受けて反射するトンボ玉は、お館様の屋敷で行灯に照らされた杏寿郎の瞳の光に似ている。恨まれている可能性は多分にあったはず、それでも柱の誰一人月奈を責めるような視線を向けることは無かったことにとても驚いた。
「私にはこれだけあればいい。これ以上は欲張りなんだから」
簪を胸元に抱くと小さく呟いた。これ以上自分勝手に巻き込むことは出来ない。思い出だけを持って明日にはここを発つべきだと改めて思う、ここでのんびりしていてはきっと捕まってしまう。
それだけは避けなければいけない。捕まれば逃げられなくなると分かっているから。