第23章 隠し事
し「これは先日月奈が落とした物です、お返ししますね」
しのぶの手に乗せられているのは、あの日失くしたと思っていた物。しのぶはそれが月奈の物だと知っていた、勿論杏寿郎も。キラキラと光を反射させるトンボ玉、それはまるで杏寿郎の瞳のようだ。
「ありがとう…ございます」
受け取った瞬間に安堵したのか、じわりと胸が温かくなり涙が浮かんでくる。杏寿郎が気持ちを込めて贈ってくれた簪、杏寿郎のことを忘れたくなくてみっともなく持ち続けていたのだ。
し「…煉獄さんと話さなくて良いのですか」
大事そうに胸に簪を抱いた月奈に、しのぶは小さく問いかける。それ程に大切そうに持っていたならば話す事は沢山あるのではないかと思ったが本人は横に頭を振っていることにしのぶは溜息をつく。
ーまったく、一筋縄ではいかない子ですね。
し「悲鳴嶼さん、もう遅い時間ですので月奈は一先ず蝶屋敷に泊めます」
行「そうだな、頼むぞ胡蝶」
煉「…蝶屋敷まではどうやって帰るんだ?」
「自分で帰れます。お気遣い頂かなくても問題ありませんので煉獄様もお帰りになられてください」
これでも元隠ですよ、と答えるとしのぶと月奈を残して二人は部屋を出て行った。
し「月奈、本当に良いのですか?以前も言いましたがいつこの日常が無くなるか分からない生活の中で今話さずに終わって後悔は無いのですか?」
普段の穏やかな声音と違い、少し責めるようなしのぶの声音に月奈はぐっと押し黙る。
し「大事そうに抱えた簪は煉獄さんからの贈り物なのに、どうして煉獄さんとはお話出来ないのですか。自分の気持ちに素直になって…」
「素直になったら何が変わるんですか?ただの子供のように泣き喚いて何が変わると?ただ駄々をこねる子供になれと?」
し「それは…」
蜜「月奈ちゃん!」
部屋に飛び込んで来た蜜璃に視線を向けた瞬間、室内に乾いた破裂音が響いた。しのぶが息を呑んだ音がハッキリと耳に届く。
煉「甘露寺!落ち着くんだ!」
行「月奈、大丈夫か?すまないな」
頬を押さえて茫然としていたら、しゃがみ込んだ行冥が謝ってきたが月奈自身何が起こったか分からず、杏寿郎に後ろから羽交い絞めにされている蜜璃を見つめていた。