第23章 隠し事
明かりがぼんやりと照らし出す室内を見回して月奈は
ピタリと一点に視線を止める。優しい明かりが灯る行灯の隣に立っている杏寿郎の瞳は行灯の光に照らされてキラキラと光を返している、その視線に吸い込まれるように見つめ返す月奈。
「…杏…」
街では見ることが出来なかった杏寿郎の姿に、無意識に手を伸ばしそうになる衝動をぐっと堪えると目を逸らす。名を呼ばれかけたことに気付いただろうか、もう自分が呼んではいけない名前なのだと自身に言い聞かせれば胸がズキリと痛む。
「…取り乱してしまい申し訳ありませんでした。もう大丈夫です。明かり、ありがとうございます」
煉獄様、と呼んで微笑むと少し傷付いたような表情を見せる杏寿郎に更に胸が痛んだ。そんな表情にさせたかったわけではないけれど、自分ではもう杏寿郎を笑わせることが出来ない。その権利すら捨てて鬼殺隊を抜けたのだ。
杏寿郎にあてた手紙には、身勝手な理由による破局への謝罪と幸せな縁があるようにと願うことを書いた。本当は自分の気持ちを偽ってでも突き放す言葉を書けば杏寿郎も諦めがつくと分かっていた、だけどどうしても書けなかった。
(自分の甘さで何度も杏寿郎様を傷付けてしまっている。結局、他に嫁ぐ話も書くことは出来なかった…忘れて欲しくないという自分勝手な気持ちを優先した結果がこれ。我儘になってもいいだなんてお館様は言ってくださったけれど、皆に迷惑をかけるだけだって明白だわ)
し「…月奈、今日は家に帰りますか?帰るならば送りますよ、外は随分暗くなってしまいましたから」
「数日の暇を頂いたので家には戻らなくても問題はありません」
し「暇を頂けたのですか?ご主人は…」
「しのぶさん!あの、久しくお会いしていないのでアオイさん達にも会えたら嬉しいのですが、蝶屋敷にお伺いしても…」
街の人間に嫁ぐことはしのぶと蜜璃には話してあるから、心配するのも当然だろう。しかし、今この場でそれを話題にされると非常に困る月奈は慌てて話を逸らした。
が、時既に遅し。行冥と杏寿郎の視線がひしひしと月奈の後頭部に刺さる。
(…これは確実に聞こえていた…わよね。振り向くのが怖い)
「しのぶさん、早く蝶屋敷に…」
行こう、と言いかけた月奈はしのぶが少し逡巡した後で取り出した物に目を見開いた。