第23章 隠し事
闇の中から出てくる二つの人型から逃げるために這いずっても見知らぬ部屋の中をもがくだけで、出入り口に近付けない。
幻想だ、幻だと分かっているのに圧し掛かられたみたいに体が重く呼吸がし辛い。
足元から体を飲み込む様に這い上がって来る闇に月奈はゾっと体を震わせ息を呑む。
「…っ…助け…」
口を吐いた弱音は最後まで吐き切る前に固く結ばれた唇によって飲み込まれた。
(違う、もう誰も助けてくれない。早く明かりを付けないといけないのに…)
四肢に力を込め体を起こした月奈だったが、座り込んだまま虚ろな瞳を彷徨わせる。明かりが見つからない、広がるのは闇ばかりの部屋で恐怖が許容範囲を超えたのだろう、涙がボロボロと畳に落ちていく。
(泣いてる…泣いても仕方ないのに…)
「大丈夫、大丈夫…」
瞬きをするたびに大粒の涙が落ちて行くのを見つめながら自分に言い聞かせる。大丈夫だから、泣くなと。
暗闇で眠るなんて迂闊な自分が悪いのだから。
し「大丈夫、ではなさそうですね月奈」
視界の端がふわりと明るくなり、俯いていた月奈の頬に温かい手が触れる。ビクリと震えた肩を優しく擦るしのぶの手に落ち着きを取り戻したのか月奈がゆっくりと視線を上げると、優しく微笑むしのぶが覗き込んでいた。
「…だ、大丈夫です。すみません」
今の自分は随分と情けない顔をしているのだろうと思い至った月奈は慌てて顔をゴシゴシと擦り涙を拭く。目尻が痛くなる程に擦ってしまい「目が擦り切れてしまいますよ」としのぶに手を止められてしまった。
行「月奈、落ち着いたか」
しのぶが明かりを付けてくれたものだと思っていた月奈は声がした方向に振り返り行冥の姿を確認すると、目尻のみならず顔まで真っ赤になってしまった。
ふと自分の肩にかかっている羽織に気付きギョッとする。
「悲鳴嶼様の羽織をお借りしてしまい申し訳ありません!あ、洗ってお返し…」
行「それは構わない」
苦笑して月奈の手から羽織を受け取った行冥にふと違和感を抱く。
(あれ?そういえば明かりはどこにあった…?)