第23章 隠し事
あまねが事前に柱達に話していたのだろう、月奈が入室したことに誰も声を上げず静かに迎え入れた。もう一般隊士でもない月奈は久しぶりに感じる柱達の空気に少し震える足に叱咤しながらゆっくりと歩きあまねの隣に座った。
あ「月奈さんから柱の皆さまに直接お礼を述べたいということで、お館様が本日お呼びしました」
視線で「どうぞ」と促され、月奈は緊張して乾いた喉がひりつく。ゴクリと唾を飲み込んでなんとか潤わせてからまっすぐ柱達を見据え口を開いた。
「この度は、弟の月哉のことで皆様のお手を煩わせたことのお詫びと鬼殺をして頂いたことの御礼を申し上げます。弟もこれで苦しむことが無くなったと思います」
弟の顔を思い出すといつも辛かった。鬼になることで人間だった頃の記憶がどうなるのかは分からないが、もし記憶を持ったままに人間を食べていたとしたら…そう考えると月哉は地獄のような苦しみを味わっていたのかと思ってしまう。
(鬼になるきっかけは稀血の私が居た家に弟として生まれてしまったが故の偶然だった。私が稀血ではなかったなら、弟が別の家に生まれていれば、なんて考え続けていたからあの子は夢で私を襲ってくるのかもしれない)
「私もこれでようやく楽になれます。本当にありがとうございました」
ゆっくりと頭を下げた月奈の背に手を添えたあまねは両側に控えた娘二人に月奈を別室に案内するようそっと囁いた。
あ「胡蝶様」
月奈が部屋を退出したことを確認して、あまねがしのぶを呼んだ。不思議そうな表情を浮かべたしのぶが近くに寄ったところで皆には聞こえないように耳打ちをする。
あ「月奈さんの顔色があまり良くないようですので、解散になりましたら診て頂きたいのですが」
しのぶはすぐさま頷きチラリと話し合いを始めた柱達を見やった。
ー月奈と話が出来るのは好都合ですね。先程の会話でも少し気にかかることがありますし。
し「あまね様、他の柱も月奈と会う事をお許し頂けませんか?」
しのぶからの申し出にあまねは少し迷っていたようだが、先程のお館様と月奈の会話を思い出し頷いた。
あ「月奈さんの気持ち次第ですが、私は構いません。胡蝶様から月奈さんに確認した上でならば問題ありません」