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【鬼滅の刃】闇を照らして【煉獄杏寿郎】

第23章 隠し事



「…ない!ない!」

宿に入った月奈は、布団の上に巾着やカバンの中身を広げていた。世話になっていた長谷の家から巾着に入れて来たことは覚えている。

(いざとなれば武器になると思って巾着に入れていたけれど…)

持ってくることを忘れていないとすれば、残された答えは一つ。月奈は頭を押さえて呻いた。

「落としたとなれば、街に来てからよね。あの見世で巾着からお金を出した時か、ぶつかって倒れた時だわ!」

あぁ…と溜息を吐いて窓から外を眺めれば日が傾き宿の明かりが外を照らし始めている。今から探したとしても道が暗くて分からないだろう、それ以前に蹴られてどこかに行ってしまったかもしれない。

人の往来はまばらにはなっているが、完全に人が消えるのはまだ先の時間なのだろう。こんな時間に普通の街に居ることなど今まで無かった月奈は夜の街に好奇心がうずき出す。

(花街とはまた違う、落ち着いた夜の街ってなんだか魅力的だわ。…少しだけなら大丈夫かしら、まだ人も居る時間だものね)

落としたものを探したいから、と自分自身で理由を付けながらも頭の中では「夜に出歩くのは不味いのでは?」と警鐘が鳴っている。

「…うぅ…駄目よね、明日も朝早いもの。今日はもう寝よう」

予定よりも早くここを出発して少し探しながらお屋敷に向かっても十分な時間はあるだろう。布団の上の物を手早く片付けると普段よりも早い時間だったが床に就いた。

(偶然にも今日会ってしまったけれど、明日会った時にはきちんと前を向いていなきゃ。皆に御礼を言わないとね)

街まで歩いてきた疲れだろうか、自然と瞼が重くなりやがて眠りへと落ちた月奈。部屋の明かりは煌々とついたまま。煉獄家を出てからも悪夢を見る夜が多かった月奈は、夜半に飛び起きる事もしばしばあった。悪夢に魘され飛び起き、暗闇に自分が一人であることを認識すると叫び声を上げることもあった。

幾度かそんな夜が続いてからは部屋の明かりを落とさず眠るのが当たり前となり、次第に叫び声を上げることは無くなった。ただ、目覚めると傍に杏寿郎が居ない現実に涙することは減っても無くなることはなかった。

「杏...寿郎...様」

穏やかな寝息に混じって紡がれた名を聞いていたのは鎹鴉だけ。
頬に伝う涙を見ていたのもまた鎹鴉だけだった。

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