第23章 隠し事
自身で鬼殺隊を抜けた、恩知らずな人間として恨まれこそすれ会いたい探し出したいという人間は居ないはずだと月奈はずっと自分に言い聞かせて来た。
(そうでもないと戻りたくなる気持ちが消えないから、だったけど。どっちにしても鬼殺隊を恋しく思う気持ちは消えなかったわね)
苦笑しながら露店をキョロキョロと見回すと、飴細工の並ぶ見世が目に入り、月奈はキラキラと目を輝かせた。いらっしゃい!と元気な店主に声を掛けられながら、目の前に並ぶ金魚や花、動物の姿の飴細工を食い入るように見入っていた。
「店主さん!これ、一つくださいな!」
巾着からお金を取り出し店主に渡すと、まいどあり!と金魚の飴細工を台座から抜き月奈に渡された。日の光に当たってキラキラと光を反射させる金魚、食べるのが勿体ないと月奈は思う。
光の反射を楽しみながら歩いていたため、前方から歩いてきた人物に気付かずぶつかってしまった。お金の入った巾着が落ちたことに気付き拾おうとしゃがんだところで頭上から声がかかり月奈は息を呑む。聞き覚えのある声、明日には会うことを覚悟していたが、まさかここで会う事はないだろうと油断していた。
(不味い不味い…いや別に何が不味いって訳じゃないわよね?どちらにせよ明日会う予定だったのだし…いや、でも)
巾着をぎゅっと握りしゃがんだままの月奈は頭の中でこの状況をどう切り抜けるか必死に考えていた。
煉「よもや、ケガでもしたか!」
し「あら、でしたら私が診ましょ…」
しのぶがしゃがみ込んだ瞬間目が合い言葉が止まる。今の月奈は隊に居た頃よりも髪が伸び、着物に袴を身に着けているのでおおよそ顔を見ない限りは気付かれないはず。
(ケガもしていないし、私だということも言わないでしのぶさん!!)
しのぶに向かってブンブンと首を横に振った月奈は俯いたまま脱兎の如くその場から去って行った。
煉「うむ!ケガは無かったようだな、綺麗な走りだ!」
し「……」
呆気に取られたしのぶは、月奈が倒れ込んだ場所に落ちている物に気付き拾い上げた。
煉「む?それはあの少女の落とし物か?」
しのぶの手元を覗き込んだ杏寿郎は動きが止まった。しのぶの小さな手の上に乗っている物に見覚えがあったからだ。