第23章 隠し事
長谷の言った通り、会敵の知らせから2日目に再度鴉が言伝を運んできたのだった。呼び出しが来た、つまり弟が鬼殺されたということになる。
悲しくないと言えばウソになるが、いっそ生き残っていることを知らないままで、あの頃をずっと生きていられたら…と思い浮かべた杏寿郎の顔を消すように頭を振る。
「そういえばどうやってお屋敷に行けば…」
結局道を知らぬまま隊を抜けた月奈にお屋敷まで辿り着く手段が無い、すると呟きを聞いたように鴉が肩に乗って「カァ」と鳴いた。
「…貴方が連れて行ってくれるの?ふふ、よろしくお願いします」
任せろ!とでも言うように胸を張った鴉に微笑みかけた月奈は、これからの旅路の為に部屋へと戻り準備を始めたのだった。
長「今から出発するとなると、街で一泊するのかい?」
「はい、その予定です。お館様からは明日の夕方までにお屋敷に来るようにと言われていますので、明日の朝早くに宿を出れば間に合うかと」
長「宿の目途は?」
何故そこまで聞くのだろうかと月奈は首を傾げたが、一件の宿の名前を伝える。安すぎる宿では翌日の旅路に疲れが出そうなので、少し高めではあるが安全な宿を取ろうとは考えていた。
(幸い、鬼殺隊の時のお給金もあまり使う機会が無く貯まっていたし、こういう時に使うのが一番よね!)
宿の名前を聞いて「ふむ」と考え込んだ長谷に増々不思議な表情になった月奈だったが、結局長谷が一人頷いて「月奈君は気にしなくていい」と話を終わらせてしまった。
「では、行って参ります。数日道場のお手伝いが出来なくなりますがよろしくお願い致します」
長「こちらのことは気にせず、ゆっくり行っておいで」
ーさて、どれくらいで戻って来れるか…
きっと鬼殺隊の柱と呼ばれる人達に数日捕まるだろう、安易に予想が付いた長谷だったが、笑顔で手を振る月奈に手を振り返し見送った。
「久しぶりの街ね、早く到着出来たし散策出来る!」
鼻歌混じりで街を歩く月奈は、油断していた。鬼殺隊を抜けてから街に来たのは数える程、街に出れば鬼殺隊の人間と会う可能性があるという理由から避けていたのだ。
鬼殺隊の人間は特に感覚が鋭い、鬼じゃなくとも人の気配を辿ることくらいお手の物だろう。
(あくまで探されていた場合は、だけれどね)