第22章 消失
長「居場所の詳細は教えられないが、一つ言えることは”変わりなくやっている”よ」
変わりなく。強調された言葉に杏寿郎はどちらに取るべきか頭の中で考える。
ー元気にやっているとも取れるが、消えた時から何も変わらず”ただ生きている”とも考えられるか?さすがに簡単には教えて貰えないようだな。
長谷の表情は穏やかなまま。しかし杏寿郎は知っている、この会話からも長谷は杏寿郎の考えることを的確に捉えているのだということを。以前月奈と生家に訪れた時に心中を見透かされたように言い当てられた経験から敵う相手ではないとは思っていた。
ーしかし、負け戦になると分かっていても何か一つでも情報を得るまで帰る訳には行かん。と思ったが今回はここまでか。
煉「そうですか。分かりました、長谷殿が月奈の今を知っているならば安心しました」
長「本当は二人でここに来て欲しかったんだけれどね。どうか月奈君を恨まないでやって欲しい。ただ、辛いのなら忘れることも一つだよ煉獄君…」
長谷が沈痛な面持ちで杏寿郎に一つの選択肢を与える。思い続ける必要などないのだ、と。そう言われた杏寿郎は自嘲の笑みを浮かべて立ち上がった。
煉「それが出来ればこれ程まで執着しませんよ長谷殿。月奈が居なければ何も出来ないただの男、ならばせめて月奈の残した願いは柱として完遂せねば!」
ーそうだ、弟の件が引き金ならばそれを解決しない限り月奈には辿り着けないのだ!気付くのが遅れたな、今は月奈からの任務に集中するしかないな!
目に力が戻った杏寿郎を見て長谷は一言「そうか」と笑った。それぞれの幸せを願ったからこそ起きた今回のこと、掛け違えた釦を直せるかどうかは杏寿郎と月奈の問題だ。
長「話した甲斐があったようだね、ただ頑張り過ぎて君が倒れては元も子も無いことだけは頭に置いておくように」
自身の今日までの荒み様を思い出した杏寿郎は苦笑した。穴があったら入りたい、とはまさにこの事だ。
煉「肝に銘じておきます。またお伺いしてもよろしいでしょうか長谷殿!」
勿論だ、と頷いた長谷は「ただ一つ」と言い置いた。
突然訪ねて来るのは止めて欲しいと。
この日から急激に調子が戻った杏寿郎に、柱達は勿論家族が驚いたのは言うまでも無かった。