第22章 消失
煉「御免ください!」
杏寿郎は一人、山奥の一軒家に来ていた。中から出てきた人物は相変わらず年齢を感じさせない立ち振る舞いをしている。穏やかな表情で「よく来たね」と招き入れてくれた。
長「久しぶりだね煉獄君。…なんだか痩せたかい?」
心配するような瞳を向ける長谷に、杏寿郎は苦笑をする。月奈が姿を消してからというもの、何もかもが上手くいかなくなっていた。
煉「柱として任務を全うしなければならないのですが、如何せん集中出来ずに周囲に手間を掛けさせています」
自宅でも向けられる視線は憐憫の色が濃い、柱が矜持だったはずの杏寿郎にとって今はこの羽織すら重く感じる。月奈が消えた日、一通の文が杏寿郎の元に届けられた。それは月奈が消える準備をしていたことに他ならず、父である槇寿郎や弟の千寿郎ですら気付いて居なかった。
ー煉獄家の三人それぞれに文を書くとは月奈らしいものだ。その上で、三人に気付かれることもなく姿を消せたことが不思議でならない。
煉「月奈が姿を消した日に一部の人間に文が届けられました。皆それぞれに内容は違えどたった一つだけ同じ文言が書かれていました」
何があろうと鬼殺に苦しむことが無いように願う。
柱にとってそれは「あなた達柱が苦しむ必要はない、一息で弟を鬼殺して欲しい」という願いになり、弟の件を知らない隊士達からすれば「辛いけれど頑張って欲しい」という願いになる。
長「そうか…。月奈君は不義理な事をしたね、お家の方に謝っておいて欲しい」
煉「いえ、それで一つお伺いしたいことがありまして今日伺った次第なのですが」
長「残念だけれど、僕の元に届いた文の内容は教えられないよ?」
まるでこれから聞かれる話を誤魔化すように、明らかな見当違いの回答を返す長谷。まさか、と杏寿郎は首を横に振る。聞きたいのはもっと簡単でもっと大切な事だ。
煉「月奈はどこかに身を寄せ、幸せに生きているのでしょうか。場所を教えて欲しいとは言いません、ただ身寄りを無くして隊からも抜けて行く場所があったのかどうかが知りたい」
長谷は目を丸くした。想像していた言葉ではなかったからだ。
ー場所を教えて欲しい、とでも言うかと思っていたが…。月奈君もだが煉獄君も随分と自分を律してしまうきらいがあるな。