第21章 悪夢
千「あ、お帰りなさい月奈さん!早かったですね、ゆっくりお話できましたか?」
「ただいま。ゆっくりどころか話し過ぎたくらい。今から夕餉の支度でしょ、手伝います」
煉獄家に帰宅した月奈は千寿郎の笑顔につられて微笑んだ。槇寿郎には恐らく話したであろう柱合会議の内容、しかし鬼殺隊ではない千寿郎には話せないのだろう。
(もしかしたら、それだけじゃなく私と千寿郎さんが気まずくならないように配慮して下さったのかもしれないわね)
優しい杏寿郎をこれから傷付けてしまうと考えると胸が痛むけれど、それでも杏寿郎の幸せを願って自分は身を引かなければならない。ここを去る日まで涙は見せずに笑顔でいよう、それだけが私に出来ることなのだから。
煉「月奈、まだ起きていたのか?」
廊下から響いた声に、読んでいた本を閉じて障子を開ける。
任務お疲れ様でしたと微笑むと、隊服姿の杏寿郎が「もしや眠れないのか?」と頬を撫でる。
無一郎の屋敷で倒れてから、毎日鬼になった弟の夢を見ていることを知っている杏寿郎は心配そうに眉を下げたので月奈は慌てて首を振る。
「報告書を作成してから本を読んでいました。もうじき眠ろうかと思っていたところです」
煉「俺も風呂に入って寝るとしよう。読書もほどほどにな!」
今日の任務は大変だったのだろうか、欠伸をする杏寿郎を物珍しそうに眺めてしまった。その視線に気付いた途端少し恥ずかしそうに苦笑すると「おやすみ」と言って自身の部屋へと入っていった。
(杏寿郎様の腕の中で眠ったあの日は穏やかに目覚めることが出来た。だからといって一緒に眠って欲しいだなんて言えない…そうだ!)
障子を閉めようとした時にハッと思いついた。杏寿郎の腕は無理でも、何か物であれば抱いて眠れるのではないかと。
(いやいや、ちょっと待って。それじゃただの変質者じゃないの…でも、落ち着いて眠れるなら…杏寿郎様も許してくれるかしら)
障子を閉めて文机で本を開いてうんうんと唸っていた月奈は、湯殿へと向かう杏寿郎の足音を聞き届けるとこっそりと障子を開けて廊下を確認する。
(よし、誰も居ない。杏寿郎様の入浴時間は然程長くない、急がなきゃ!)
抜き足差し足忍び足、と呟きながら廊下を進み杏寿郎の部屋へと忍び込んだのだった。