第21章 悪夢
蜜「月奈ちゃん...」
し「知ってしまったものは取り返しがつきませんよ。忘れられるならば良いのでしょうけれど、忘れてしまえるほどの気持ちではないでしょう?」
コクリと頷いた月奈に、やれやれとしのぶは溜息をついた。蜜璃が慌てて持っていた巾着袋からハンカチを取り出すとポタポタと頬から落ちていく涙をそっと拭ってやる。
蜜「それでも他の殿方に嫁ぐの?私達のお仕事っていつどうなるか分からないじゃない、だからこそ気持ちに正直にいたいと思ってるわ」
「これ以上鬼殺隊の御厄介にはなれません。目の前に弟が現れたらと毎日夢に見るんです、どうにかして鬼殺されないように考えている自分は現実でも同じ行動を取るんじゃないかって怖いんです」
月奈が助けを乞うたとして、刃を止めない人間ばかりならば鬼殺隊に残ったかもしれない。でもきっと違う、鬼の禰豆子を生かして鬼殺隊に居ることを良しとした優しい人ばかりなのだ。
「弟の鬼殺を願ったのは私です、なのにその場で鬼殺の妨害なんてしたくはありません」
それに...と呟いた月奈は涙が止まった濡れた瞳でしのぶを見つめると、苦笑してある一言を放った。
「しのぶさん、私の身体の傷覚えてますか?」
し「え?えぇ、覚えています。だから結婚を考えないと...」
「そうです。最初の頃にそういうお話をしましたよね」
蜜「え?じゃあどうして今回の縁談を受けたの?」
結婚をして子供を授かり幸せに暮らす、そんな将来設計が当たり前な時代。結婚をする事は即ち夜伽に繋がる。
「私の傷だらけの身体を見て普通の方はどう思うでしょうか?」
きっと気色が悪いとなればそんな気が無くなるだろう、安易に想像が付く。そして子供を作れないとなれば...
「もしかしたら家を追われるかもしれませんね」
(清いまま追われたなら、私は杏寿郎様だけを思って生きて行ける)
し「まさかそんな...そうなった時に助けてくれる人がいるの?」
蜜「それを師範に話せば、迎えに行くって答えてくれるはずよ!」
「杏寿郎様の幸せは別にあると先程言ったじゃないですか、私は私で生きて行く覚悟を決めただけのことです」
今の話は内緒ですよ、と二人に微笑むと冷めてしまったお茶を飲み干し立ち上がった。外を見れば、先程まで降っていた小雨は止み日が差していた。