第21章 悪夢
し「月奈、私は聞いていませんよ」
蜜「私も!どうして相談してくれなかったの!?」
小雨が降る外を眺めていた月奈は目の前の二人に視線を戻し苦笑する。柱合会議以降、しのぶや蜜璃から何度も誘いがあったがどうしても会う気になれなかったのだ、聞きたいことが山ほどあるとばかりに詰寄る二人。
「柱のお二人にお話なんて出来ませんよ。ただでさえ弟のことでお手を煩わせるのですから」
甘味処の一席で集まる三人、いつもなら時間が足りない程に賑やかに話をしているはず。しかし今日の二人は険しい表情だ。
し「時透君も言っていましたが、弟さんが鬼になったからといって月奈に責任は無いのですよ。それなのにどうして」
蜜「師範とだって仲良くしていたじゃない...鬼殺隊を抜けるだけじゃなく一般市民に嫁ぐなんて酷いわ!」
酷い、自身でもそう思う。自分を受け入れてくれた鬼殺隊も煉獄家も捨てて街に嫁ぐのだ。あれほど嫌がった街に。
「恩を仇で返す、そう言われても仕方ありません。これは私の我儘ですから。私よりももっと杏寿郎様には...」
ぐっと喉に何かが詰まったように言葉が止まる。まるで言葉にしたくないと体が拒否しているようだ。喉に手を当て深呼吸をするが、つっかえた様な感覚が残る。
し「煉獄さんには...良い縁がある、とでも言うのでしょうか?」
気をつかって代弁してくれたのかと思ったが、表情を見れば違うことが分かる。しのぶは、余りにも自分勝手な言い分ではないかと先回りして釘を刺したのだ。その証拠にいつもの笑顔はなく眉を顰めて月奈に視線を向けている。
「そうです、私よりももっと良い方が現れます」
蜜「そんなはず...それを師範が認めると思うの?本当に?」
し「笑えない冗談は駄目ですよ月奈、私や甘露寺さんに位誤魔化さずとも良いのです」
しのぶの優しい声と蜜璃の悲しそうな声に、堅く閉ざした心が開きかけ月奈は唇を噛み締めた。言えない、言えるはずがない。
「誤魔化してなんか...」
蜜「そんなに簡単な物かしら、好きな気持ちって」
(簡単なんかじゃない。いっそ嫌いになりたい、こんなに苦しいなら)
「杏寿郎様を知りたくなんかなかった、こんなことになるなら...」
漏らした声に気付いた時には、堰を切ったように涙が溢れていた。