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【鬼滅の刃】闇を照らして【煉獄杏寿郎】

第21章 悪夢



「……」

口を開いて何かを話そうとするが声が出ない、ただパクパクと動く唇を見つめた杏寿郎は眉を顰めた。

ーつきや…弟の名を呼んでいるのか。

無「月奈。今日から僕はしばらくの間留守にするからここに来ても誰も居ないからね。忘れないでよ」

月奈の少し虚ろな瞳が揺れ無一郎を見返した、まるで寂しいとでも言う様に。杏寿郎は自分を見ていない月奈に苛立ちを隠せず抱き起こしていた腕に力がこもる。

「…っ」

痛みを感じたのか月奈が顔を顰める。ハッとしたように力を緩め「すまない」と謝った杏寿郎に力が戻ってきた月奈は微笑んでみせた。

大丈夫です、と唇が動き安堵した杏寿郎は月奈を抱き上げると無一郎に視線を移した。

煉「任務終わりにすまなかったな!刀鍛冶の里へは気を付けてな」

無「煉獄さんこそ気を付けて帰ってよ。月奈を落とさないようにね」

ひらひらと裾を振ってお見送りをしてくれた無一郎の姿が見えなくなったところで気が抜けたのか、月奈の体から力が抜けていく。

ーむ?眠ったのか…?

縁談について聞くつもりだったが、無一郎の屋敷で倒れていた月奈を見て肝を冷やした。病床に臥せった母に姿が重なったのだ。

ー狼狽えるとは不甲斐なし!幻影など見ている暇はない!

家に戻って落ち着きを取り戻したら月奈に詳細を聞こうと思い直し、家へと足を進めた。


(ん…この香りは…)

鼻腔をくすぐった香りに月奈はゆっくりと目を開くと、目の前には規則正しい寝息を立てて眠る杏寿郎が居た。杏寿郎の腕に包まれていることにひどく安心する。

(ちょっと前までははしたないと思ってすぐ離れていたけれど)

もう少しだけ。そう思って胸に顔をうずめるとまた目を閉じる。

もう少しすれば、この香りを感じ取ることもこの腕に守られることも無くなるだろう。鬼殺隊を抜けて一般の市民の元に嫁ぐ、そうすれば弟を鬼殺する時に誰も傷つかない。

(杏寿郎様には相応しい方が嫁いでくる。それでいい)

気を抜けば零れていまいそうな涙、それを見せることで皆が同情的になることが分かっているからこそ、泣くわけにはいかない。ぎゅっと強く目を瞑り自分は大丈夫なのだと言い聞かせる。

(辛いのはほんの一瞬。まだ長い人生なんだもの)
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