第21章 悪夢
し「私はその一件に感知していませんよ煉獄さん。隊士との中継ぎはしましたが、市民の方からの申し込みは私を介すことがなく月奈の元に来ていたようです」
縁談を受けたかどうかも分からない歯痒さに、ギリリと歯が軋む程に噛みしめた。握りしめた拳がふと緩んだことに気付いたしのぶが顔を上げれば、杏寿郎の肩に止まった要と目が合った。
し「早いですね。優秀な子です」
ニコリと微笑んだしのぶの顔を映していた瞳が瞬きをすると、杏寿郎が無一郎の名を呼んだ。
煉「月奈は時透の家に向かうと言って家を出ているようだ。今すぐ向かう」
無「分かった」
し「それ程に心配をするならば、あの時優しい言葉一つでもかけて差し上げたら良かったのでは?」
しのぶが言うあの時とは十中八九柱合会議のことだろう。望みを持つことすら許されなかった月奈が絶望したことは容易に想像できる。
ーかといって私自身も煉獄さんの言葉が正しいからこそ何も言えなかったのですが…
煉「ありもしない希望を見せて何になる。後から更なる絶望に打ちひしがれるだけだろう」
あの場で正しい事を言うことはいくら杏寿郎といえども躊躇いはあったのだろう。だが誰かが言わなければならなかったのだ。
部屋を後にする杏寿郎と無一郎の背中を見送りながら、しのぶは自嘲の笑みを浮かべ小さく呟いた。
し「それが正しいと分かっていても、中々言えないものですよ煉獄さん」
月「姉上!こんな所で寝てると風邪を引いてしまいますよ!」
そういって体を揺すられた月奈は、転寝していたのだろう生家の縁側で目を覚ました。
月「姉上は女性なのですから、こういう所作はどうかと思いますよ」
ごめんごめん、と体を起こすと庭の藤の花が枯れているのが目に入る。あれ?と月奈は首を傾げた。
「ねぇ月哉、どうして藤の花が枯れて…」
月哉に振り返った瞬間月奈は息を呑んだ。愛しい弟の口には鋭い牙が生え、ニィと笑った双眸は赤く光っていたのだ。鬼となった弟を目にした月奈はカタカタと震え出し口からは「あ…ぁ…」という情けない声しか出てこない。
?「…い。お…い」
?「…月奈!」
名前をハッキリと呼ばれバチリと目を開いた月奈は、自身の体に力が入らずただ視線を動かすことしか出来ない。