第21章 悪夢
その後ろ姿を見つめる二人は、しのぶとは逆に落ち着きを無くしていた。月奈に何かあったということだろう、この後迎えに行く予定だった月奈の名がしのぶから急いたように飛び出したのだ、落ち着いていられるはずがない。
煉「治療はいらん、月奈に何があった?」
無「今日も僕の屋敷に来るって話してたけれど…」
二人の言葉にしのぶは「私も落ち着きたいのですよ」と薬瓶を手に戻ってきた。これほどまでに取り乱すしのぶを見たことがない二人は黙って治療を受けることになった。
し「…原因は先日の柱合会議だと思うのですが」
治療が終わり薬瓶の蓋を閉めながらしのぶがポツリと語りだす。次いで出てくる言葉は予想出来た、弟のことが絡んでいることは間違いないと踏んでいた杏寿郎は「弟のことだな」と尋ねる。しのぶは是と頷いた。
し「先日、月奈が一人でこちらに訪ねて来たので少しお話をしました。その時に気にかかっていたことがあったのですが…」
煉「気にかかったこと?」
し「月奈が言っていたのです。家系から鬼を出した以上、鬼殺隊の柱である煉獄さんの所で世話になるわけにはいかない。と」
無「何それ。別に始祖を生み出したわけでもないし偶然の産物として弟が鬼になったんじゃないの?」
杏寿郎はしのぶの言葉を聞いておもむろに机の上に置かれた紙に筆を走らせ窓を開く、普段の声よりも強い声で自身の鎹鴉を呼んだ。
煉「今すぐ千寿郎と父上に頼む!」
手早く足に括り付けてやると、要はすぐさま飛び立ち煉獄家の方向に消えて行った。
ー月奈が家にいるならば問題無いが…居ないとなれば探さねば。
し「煉獄さん…私が確認できたのは”まだ”お館様へ隊に残るかどうかのお話を通していないこと、それとあくまで噂ですが縁談についてです」
煉「縁談?全て断っていたはずだろう」
し「鬼殺隊の隊士は全て断っていました、しかし助けた市民の方からの縁談申し込みがあったそうです。それも最近」
無「それって…もしかして月奈が縁談を受けたってこと?」
悪意無く呟かれた無一郎の言葉に、大きな音が部屋に鳴り響いた。しのぶの目の前の机がギシリと歪んだ音を立てた、杏寿郎が机を拳で殴ったことが分かったしのぶはうろたえることもなく溜息を吐く。