第21章 悪夢
ここ最近、月奈は煉獄家に居ることが少ないことが気になっていた杏寿郎。まさか無一郎の元に通っていたとは、想定外な行先だった。
無「何かを忘れようとしているというか、必死な形相でひたすら組手や打ち込みをしてる。何故僕の所なのかはよく分かんないんだけど」
どうやら柱合会議の一件を無一郎ははっきりとは覚えていないようだ、覚えていれば月奈が何を忘れようとしているのか気付くはずだ。
煉「そうか、迷惑をかけてすまないな。今日はこれで任務が片付いたから時透の家に寄っても良いだろうか!」
無「そうして欲しいな。僕は刀鍛冶の里に行かなきゃいけないし」
鞘から抜いた刀身は鍔に近い根本から折れてしまっていて使い物にならないことが一目瞭然だった。無一郎が刀鍛冶に行っている間無一郎の屋敷は誰も居なくなる、そうすれば月奈は入り浸ることが出来なくなる。
煉「一度話をするべきか…」
後「炎柱様、霞柱様。後始末が完了しましたので報告致します」
話していた二人の前に跪いて報告を簡潔に行っていった後藤は、最後に「僭越ながら」と言い置いてから顔を上げた。
後「その負傷は蟲柱様の所にて治療をお願いしたく存じます。…そんな顔しないでくださいよ、蟲柱様からの指示をお伝えしたまでですよ俺は」
今からでも無一郎の屋敷に向かおうと考えていた二人は、すぐに行けないことへの苛立ちとともに、負傷した小言をしのぶから言われるのだろうとげんなりした表情になってしまった。周囲を見渡せば後始末が完了し、隠が下山し始めている。
煉「…仕方ないな!時透さっさと胡蝶のところで治療を済まそう!」
無「絶対何か言われそう、僕は行きたくないな」
そう言いながらも、言伝が伝わった以上逃げたらもっと小言が増えることが分かる無一郎は渋々といった表情で溜息を吐いたのだった。
し「煉獄さん、時透君!」
二人が蝶屋敷に到着すると、しのぶが慌てて玄関へと走ってきた。任務お疲れさまでした、と取ってつけたように言うと「こちらへ」と診察室へと案内される。
煉「何があった?俺と時透はこれから予定が…」
し「月奈が…とにかく先にお二人は治療をしますね」
言いかけたしのぶが二人の負傷にようやく気付き、長く息を吐くと少し落ち着きを取り戻したように薬品棚へと歩いて行った。