第21章 悪夢
痛々しいという気持ちがこもったしのぶの声に、畳についた手をぎゅっと握って感情が爆発することを我慢する。
「人を喰っていなければ泣いて縋ったかもしれません。炭治郎様と禰豆子ちゃんのように暮らしたいと…それが叶わないのならば姉として出来るのはたった一つです。良い悪いという自身の感情は無用です」
頭を下げ続ける月奈の背にそっと手を添えたのはあまねだった。お館様と目を合わせて頷いたあまねは「行きましょう」と月奈を立ち上がらせて部屋を出て行った。俯いたままの月奈の表情は見えず、しのぶもそれ以上の追及をすることは出来なかった。
あ「月奈さん、少しこちらでお休みになってください。まだ柱の方々は会議が続きます」
別室で待機しろと言われればそうするしかない、月奈はこの屋敷への道順を未だ知らず杏寿郎に連れてきて貰っていたからだ。
(本当に良いのか、なんて良くないに決まってる。けれど…)
一人部屋に残された月奈の脳裏には杏寿郎や槇寿郎、千寿郎の顔が浮かんでは消えていく。生まれつきではないにしろ鬼を出した家系の人間が柱の屋敷に身を寄せているなど体裁が悪いだろう。その上で醜く縋って鬼の弟を殺すななどと間違っても言えない。
(言えたとして、私に行く場所など無い。鬼殺隊の隊律に背きかけない人間をお館様はきっと良しとはしないもの)
どこまでがお館様の計画通りなのか、きっと月奈があのように返答することすら予想出来ていたのだろう。これほどの大人数を纏め上げる統率者は時に非情だと聞いたことがある、月奈自身の気持ちを試していたのかもしれないと気付いて唇を嚙みしめた。
「いっそ、死んだと思い続けていたかったわ…」
そう呟いた声は日が沈み始めた夕焼けに溶けて消えて行った。
煉「月奈が?」
弟が鬼だと可能性を提示された柱合会議から数日が経った頃、無一郎が杏寿郎に声を掛けた。無一郎の口から月奈の名が出たことに驚いた杏寿郎は眉を顰めて問い返す。
無「そう、月奈が最近僕の道場に入り浸ってて困ってるんだけれど」
周囲を隠が慌ただしく動き回る中、二人は任務の疲れを見せることも無く話を続ける。