第21章 悪夢
あぁ、自身のうるさい鼓動で鼓膜が破れてしまったのだろうか。そんなありもしないことを考える程に静かな部屋。
行「恐らく、十ほどは喰っていた。しかし、今はもっと喰っているかもしれん」
実「遭遇した時に鬼殺出来なかったんですか?悲鳴嶼さんが?」
どうやらその任務中に負傷した隊士が多く、鬼を追うよりも隊士の安全を優先しその場から動かなかったという話だった。そんな話も月奈の耳には入らない。ただ一つ分かったこと、月哉の可能性がある鬼は未だ生きている。
館「月奈の弟の可能性が出て来たこの状況で、私が判断を下すのは少し違うような気がしてね。だから皆を招集したんだ」
蜜「あのぅ、炭治郎君と禰豆子ちゃんのように鬼殺をしないで傍に居られる方法は…」
煉「それはないだろう!竈門少女については人を喰っていなかったから成り立った例だ!」
杏寿郎と月奈の関係性を知る人間は杏寿郎を驚きの表情で見つめていた。自身の恋人とその弟の窮地とも言えるこの状況で、一縷の可能性すらも打ち消すように声を上げたのだ、当然の驚きだろう。
実「煉獄お前…言い方ってもんを考えろォ」
し「煉獄さん、さすがに否定が早すぎると思います」
俯いていた月奈が顔を上げれば、杏寿郎は周りから”言い方を考えろ”、”月奈の気持ちを慮れ”と責め立てられている姿が目に入る。
冨「月奈の気持ちは誰にも分からないだろう。…お前はどうしたい」
(人を喰った鬼はもう元には戻れない。もし弟を見逃すように認めてしまえば鬼殺隊の考え方を揺るがすことになる。炭治郎様達の例とは違う、確かに杏寿郎様の言う通りだわ)
「私は…」
小さく発した声だったが、杏寿郎に向いていた視線が一斉に月奈に戻ってきた。
「もし、その鬼が本当に弟であったとしても…人を喰ったのであれば粛清対象と判断します。元々死んだと思っていたので、然程辛いことではありません。柱の皆様には心労をお掛けしてしまいますが、どうぞ躊躇わず…ただお願いできるならば苦しまないように一息に」
手を付いて頭を下げた月奈の姿に誰もが同情の目を向けていた。正しい判断、それを私情に流されず下さなければならない月奈の表情は見えない。
し「月奈…本当にそれで良いのですか?」