第21章 悪夢
し「悲鳴嶼さんの仰る、”似通っている”というのは誰と誰がでしょうか?」
行「そこの娘と…鬼だ」
皆が息を呑み静まり返った部屋で、月奈はぐるぐると回る視界で柱達の視線がこちらに向いていることに気付いた。あぁ、何故鬼と似通っているのかという疑問に答えたいのに思考が回らない。ただただ目が回る。
館「実は行冥から報告を受けていてね。とある鬼の気配と隊士の中の誰かの気配が似ていると。任務の遂行を行いつつ隊内を探して貰っていたんだ」
冨「それで何故今なんですか?任務中に探し出す事は出来なかったのでしょうか?」
スッと手を挙げて疑問を口にしたのは義勇だ。当然の疑問、任務の遂行をしながら隊内を探ったのならば今初めて気付くのが不思議な話だ。
行「鬼と対峙する前に同じ任務になったことがあったのだろう、月奈という娘の気配に鬼が似ていたという方が正しいかもしれないな。もし隊士が鬼になっていたなら大問題、だからお館様にご報告した次第だ」
(私に似た気配の鬼…でも家族は全員鬼に殺されているはず)
いや、ちょっと待てと自身の頭の中で引き留める声がかかる。殺されている”はず”、自分の目で亡骸を目にしてはいない。何故なら逃げろと言われ背を向けて一人逃げたからだ。
館「月奈、実は私から君に一つ言っていなかったことがあってね」
亡骸の中に弟君の亡骸は見つからなかったんだ。
そう静かに発されたお館様の声に月奈は絶望へと突き落とされた。膝の上で重ねた両手は痙攣のように震え出し呼吸が浅くなっていく。
鬼になって生きていれば、なんて禰豆子を見て安易に考えた罰だろうか。鬼殺隊の人間である自分の弟が鬼になってしまったなんて。
「あ、の…」
貼り付いたような喉から絞り出された声はこれから聞かねばならない言葉を拒むように掠れ、月奈は自身が恐れていることに気付かされる。
「岩柱様、その…弟と思われる鬼は…」
震える手にギュっと力を込め、行冥に視線を合わせた。聞きたいことは誰もが予想しているはず。だが誰も口を挟むことはせず月奈の言葉を静かに待っている。
「人を喰っていましたか?」
(まるで断罪をされるような気分だわ。分かり切った処罰を待っている)
皆が息を止めているのではないかと思うほどに、しんと静まった部屋。