第21章 悪夢
月奈は産屋敷邸の廊下をあまねに先導されながら歩いていた。その姿は普段の隠の姿とは打って変わって、結んでいる髪をおろし着物姿になっている。
(ここに来てから着替えを渡されたけれどどうしてだろう?お館様に会うために必要だと説明されたけれど)
チラリと前を歩くあまねを見ると、いつも通り落ち着いた表情で前を向いている。その表情から何かを探ることは出来そうにないと月奈は小さく溜息を吐く。着替える際にもう一つ言われたことを思い出し、指をスルリと着物の袖に滑らせる。
袖の下には任務時のように手甲鈎を忍ばせていた、お館様からの指示の通りに。
(とにかく指示に従ったけれど、このお屋敷で武装をするなんてなんだか不躾な気がするわね。理由も教えて貰えなかったし)
色々と分からないけれど、全てがお館様のお考えならば従う他に選択肢など無い。そうこう考えている視線の先であまねがピタリと足を止めた、どうやらこの部屋が目的地だったようだ。月奈はあまねに促されるまま、部屋へと入っていく。
?「御館様、この娘は…」
部屋に居る人間全員から視線を向けられた月奈は入口で立ち止まってしまう。視線の意味は様々だが、たった一人だけ視線の意味が読めない。目が見えていないと分かるその瞳の持ち主から発された一言にお館様は微笑んで驚くべき言葉を放った。
館「行冥、確認できたかい?」
行冥と呼ばれた男は少し困惑しているように感じ取れた月奈は見えぬ瞳に見つめられ何か言い知れぬ不安を感じた月奈はゴクリと唾を飲み込んだ。
(行冥…悲鳴嶼様のお名前がそうだったわね。この方が岩柱様ということね)
行「この娘は違います、しかし…似通ったものが…」
似通ったもの、という言葉にあるはずのない想像が頭に浮かぶ。その想像が間違いであることを知りたくて口を開いたが声を発する瞬間にお館様が動き全員がハッと視線をお館様に向けた。月奈に手招きをして「こちらへおいで」と隣に置かれた座布団に座るように促されるまま、ストンと座った月奈は顔色が悪い。
(あ、危ない…声を発さないように言われていることも忘れて声を出してしまうところだった!)
未だバクバクと鳴る胸にそっと手を当て落ち着こうとした所で、しのぶが手を挙げて発言意思を示した。