第21章 悪夢
煉「やはりそうか。君は存外嘘を吐くのが下手だな!…左脇腹か骨に損傷は無いようだな」
的確に箇所を指摘した杏寿郎に月奈はギクリと肩を揺らす。何故箇所が分かったのか…顔を上げると普段よりももっとどこを見ているか分からない瞳が月奈の体を見ている。
その瞳に深い意味は無いだろう、しかし月奈は己を見透かされているような気がして頬が上気していく。
「ど、どうして…」
煉「呼吸を極めていれば身体の損傷個所も見える!手当てはしたのか?」
「しのぶさんからお薬を頂いたので、着替えるついでに手当てしようかと」
手に持っていた軟膏を見せると、微笑んだ杏寿郎にひょいと奪われてしまい月奈は「え?」と短く声を上げた。
煉「俺が手当てしてやろう!」
再び「え?」と短く声を上げた月奈は、笑みを更に深くした杏寿郎に手を引かれ部屋の中へと引き戻されていった。
「杏寿郎様…あの、自分で手当て出来ますから!」
引き戻された部屋では、脇腹を見せろとシャツを捲ろうとする杏寿郎と、それを意地でも阻止したい月奈の攻防戦が繰り広げられていた。
煉「そんなに暴れると脇腹が痛むだろう!大人しく手当てを受けろ」
「だから!…っ!?」
押さえていた裾の隙間からスルリと杏寿郎の手が差し込まれ月奈の体がビクリと固まる。「すまない、痛かったか?」と優しく声をかけた杏寿郎は純粋に手当てをしようとしてくれているのだろう、月奈はそれに気付いて大人しくする他無くなってしまった。
「いえ、大丈夫です…お手を煩わせて申し訳ありません…」
煉「それにしても、このケガはどうやって…」
(まさか時透様にやられたとは言えない…そもそも鬼のせい…とも言えない)
「ちょっと転んでしまいまして、それで木の根っこに脇腹をぶつけました!」
煉「月奈、先程も教えただろう。君は嘘を吐くのが下手だと」
苦笑した杏寿郎は青い痣になっている脇腹に軟膏を塗りこんでいく。ぐぅと唸って黙り込んでしまった月奈を見て、追及しても話す気はないのだろうと杏寿郎は心の中で溜息を吐いた。
ー出血を伴う外傷ではなかっただけマシと思うべきか。鬼に遭遇していたならば時透が助太刀に入ってもおかしくはない。