第20章 遭遇
日向の道から100m程も離れると、陰の濃さが増していく林道はともすれば夕闇の様に月奈を包み込んでいく。
ガサリと一際大きく葉を揺らした樹に慌てて振り返るがやはり何も無く、月奈は息を吐く。知らず知らずに息を詰めていたようだ。
「なんだ、風か」
?「邪魔だよ、どいて」
凛とした声が聞こえた瞬間、声を発する間も無く蹴りが脇腹にヒットする。咄嗟に膝を上げて防御態勢を取ったからか衝撃は自身の脚に吸収されたものの、片足では堪え切れず軽く吹っ飛ばされた。
?「隠の人?なんで一人でこんな所に居るの?邪魔なんだけど」
体勢を戻して涼しい声の主を見てみれば、人一人吹っ飛ばしたとは思えない小柄な少年が立っていた。自分を「隠」と呼んだということは鬼殺隊の人間である可能性が高い、少年の格好を見て予想は間違っていなかったことが分かる。
「隊服…鬼殺隊の隊士」
その少年は珍しく脚絆を付けず袴のまま、上着は詰襟ではあるものの袖は広がりまるで着物の様にゆったりとした隊服に身を包んでいる。手先まで覆うような大き目の袖に、動き辛さは無いのだろうかと見つめていた月奈は、少年が刀を鞘にしまった音にハッと意識を戻した。
?「…何?」
長い髪を結ぶこともなく無造作に風に遊ばせているその少年の瞳はぼんやりとしていて、何を考えているのかよく分からない。それでも一つだけ分かること。
(私のことが心底邪魔そう…)
仲間意識は無いのだろうか。隠であろうと剣士であろうと階級は同じように与えられているのに、自身に向けられる視線は無情だ。
「こちらには任務でいらっしゃったのでしょうか?」
?「鬼の気配に気付いてないの?鈍いんだね君」
「いえ!気付いていましたが…隠の身では彷徨うしかなかったので」
ふぅん、と興味が無さそうに月奈に一瞥をくれるとスタスタと陰が濃い林道の奥へと歩を進めていく少年に月奈は額に青筋を立てる。
(え?何?隠に対しての扱いというよりも私に対しての態度が酷くないこの人?)
ズキリと痛む脇腹に、蹴られたことを思い出し沸々と思い出し笑いならぬ思い出し怒りがこみあげて来た。立ち上がった月奈は胸に一杯の空気を吸い込むと声を張り上げた。
「ちょっと!貴方一体何なんですか!?突然蹴りを入れるし話は聞かないし!何様…」