第20章 遭遇
?「何様って……柱様?」
「へ?…はしら?」
無「うん、霞柱だよ。ホラ」
そう言って右手の甲を見せられる、確かにそこには〔霞〕の文字がある。
(柱は拝命した柱の字が浮かび上がる。杏寿郎様の炎のように、霞が浮かび上がったこの人は本当に…柱!?)
柱に対して喧嘩を売ったと気付いた瞬間、一気に青褪めた月奈。それすらも気にせず進んでいく柱の少年についていくと、突然立ち止まり「邪魔だよ」と再度蹴り飛ばされた。
また!?と思った月奈が少年に目をやると既に刀を抜いて涼しい顔で鬼の首を切っていた。表情一つ変えることなく、あっさりと鬼を切り捨てた姿はとてもしなやかなものだった。
無「もう血鬼術は解除されたんじゃない?任務じゃないならさっさと帰ったら?」
チラリと視線を向けた少年はその後振り返ることもなく林道の陰に呑まれるように去って行った。その姿を茫然と見送った月奈はしばらくその場から動けなかった。
恐かったからではない、ただ感情の起伏すら無いような静かすぎる瞳と人を人とも思っていないような激しい行動の差に困惑していたからだ。
「…な、なんて人なの…」
自身以外誰も居なくなった空間で小さく呻いた月奈は、現実逃避のように別の事を思い出し安堵した。
(御遣い終わりで良かったわ。御遣い前にこれだけ蹴とばされたら…依頼されていた荷物はきっと壊れていたわ)
丁寧に扱うように槇寿郎から言われていた物、内容物は知らないが型崩れが無いようにと言い含められたということはそれだけ壊れやすい物だということに他ならない。二度も蹴り飛ばされれば壊れていただろう、そう想像した瞬間に怒った表情の小芭内を想像してゾッとする。氷点下どころではない冷ややかな対応をされていたかもしれないのだから。
「…早く帰ろう」
思考を放棄した月奈は煉獄家に帰る為に、日向の林道で歩みを進めた。あの少年が斬った鬼の血鬼術だったのだろう、先程迷ったのが嘘だというくらいにあっという間に林道を抜けたことに月奈は驚きつつ、更に脚を早めて帰路を急いだ。林道を抜けて見上げた空が少しずつ赤みを帯び、夕刻に近くなっていた。
(蹴られた所がズキズキする…しのぶさんの所に寄って湿布貰ってこよう)
後は帰るだけ、そう思った瞬間なんだか痛みが増したような気がした。