第20章 遭遇
水橋という隠が早々に辞してくれたおかげで、甘露寺とゆっくり菓子を楽しめました。
追記として書かれている文に槇寿郎は首を傾げた。早々に辞してこちらに向かっていたのならば既に帰宅しても良い頃だ、しかしその気配は全くない。
槇「天気も良いから街にでも寄っているのか」
任務以外の時間をどう使っても自由、朝食の席では日が暮れる前には戻ると月奈自身が言っていたことを思い出した槇寿郎は独り頷いて納得した。まさか当の本人は帰路で迷っているとは露も知らずに。
なるべく日の差す道を選んで歩いていた月奈はふと気が付いた。
(同じところを回っている…?)
木の上から方向を確認して歩いてきたにも関わらず一向に道が開けないのだ。林道だから周囲は草木が生い茂るばかり、違和感を感じた月奈は近くの樹の幹に×傷を付ける。
「上から見た感じでは林道を抜けるまでにこんなに時間がかかりそうには思えなかったけれどなぁ」
別の道を…そう思い視線を巡らせるが、自分の歩いている道から一歩逸れれば生い茂る木々で作られた陰が広がっている。ゴクリと唾を飲み込んだ月奈の脳裏には嫌な考えがよぎった。
血鬼術により迷わされ、陰へと誘われているのではないかと。
(日中であっても、日が差さない場所であれば鬼も問題無い。これが血鬼術ならばそれを操る鬼自体を切らなければ解けない)
以前の任務の時に惑わせる血鬼術に苦戦していたことを思い出す。そればかりに気を取られて幼い子供の姿にされてしまったことは苦い過去だ。頭を振ってそれを払拭すると月奈は一歩陰へと踏み出した。その瞬間に肌がブワリと粟立ち、咄嗟に手甲鈎を構えるが周囲は木々が広がっているばかりで何も居ない。
否、”居ない”のではなく”気配が隠されている”のだ。
(日向に戻る…いや、結局は鬼をどうにかしないとここからは抜けられないか。でも…)
陰から日向に戻れば迷い続けるだけで何も変わらない。しかし隠である月奈は鬼を殺すことができる日輪刀を持っていない。つまり倒す手段が無い人間にとってこの状況の打開策は見当たらないことになる。
四面楚歌?はたまた八方塞がりか?そんなことを考えながらも視線は周囲を警戒することを止めない。