第4章 行く先
蝶屋敷で過ごし始めてから4週間くらい経っただろうか。
月奈は記憶を取り戻してからというもの、頭痛も治まり穏やかな日常を過ごしていた。
?「月奈、またここにいるの?」
ふと振り向くと、縁側には髪の毛を横に一つ縛りにした女性が立っていた。縛った髪の根本にはしのぶやアオイも付けている蝶の髪飾りがついている。
「カナヲちゃん!」
女性はふわりと微笑んで縁側から庭に下りてきた。
栗花落カナヲ、蝶屋敷の主である胡蝶しのぶの継子だ。
以前、てっきりしのぶの妹だと思っていた月奈は、ここに働いている子は血の繋がりがないことに聞いて驚いた覚えがある。
(微笑んだ時の雰囲気とか、とても似ているような気がしたんだけど。姉妹じゃなくても、一緒に住んでると似るのかな…)
「蝶がたくさんいるから、ついつい庭に来ちゃうんだぁ。あ、もちろん体力回復の散歩をしながらだけどね」
既に首の包帯は取れていて、傷といえば右の手のひらに残る傷くらいだ。
元気になると、病室に引き籠っていても気が滅入るばかりでついこの庭に来てしまうのだ。
昏睡から目覚めた当初はしのぶから「しばらくは出歩いてはいけません。養生してください」と言われていた、そもそも出歩ける程の元気がなかったのだが。今考えると、あの夜の記憶が戻ってしまうことを懸念していたのだろう。
カ「そう。でも無理しないでね、また転んでケガでもしたら師範に怒られるよ。もちろんアオイにも」
ひくり、と口角が引き攣る。
月奈は昔からよく‘‘ドジ‘‘と言われていた。
運動神経は悪くない、が、気を抜くとドジを発揮するのだ。
前回ケガをした時のしのぶ様の笑顔が滅茶苦茶怖かったことを思い出し、ブルリと体を震わせた。